“家畜人ヤプー・リリスの帝国編”ACT2・第17話


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“家畜人ヤプー・リリスの帝国編”ACT2・第17話
★ΑΝΝΑ β´(アンナ デュオ・女神アンナの書2)★


 西暦3970年……。ヤプ−暦1748年……。10月14日。



「現在において、“人類”はついに“時間をコントロール”する術(すべ)を手に入れました。」

 イース貴族。地球支部・太陽系地球管理局総督。そして、タイムパトロール総司令官総督“アンナ・オヒルマン侯爵”が、クララに笑みかけながらそう言った。

 またもアンナは。目前に広がる“τ(タウ)”の空間から延びる、巨大な“マンドレイク(人参果)”の木のこずえを指差し、嬉しそうに続けた。
「これは。“τの空間”から生え出た木“マンドレイク”です。よく熟れたものが有りますね。皆で、お茶と一緒に頂きましょうね。」

 アンナは、地球支部・タイムパトロールの総長官である。
 かつて、ギリシャ神“ヘラ”。中東アジア世界の統一を果たした、古代アッシリアとバビロニアの女王“セミラミス”。古代支那の天帝の母神“西王母”。インドの太陽女神“ミトラ”。そして、日本の最高神“太陽神・アマテラス”にさえ成りきった彼女の笑顔は、実に温厚で優し気だった。


 “マンドレイク”とは何か? 西洋では“魔女”が扱う“万能薬”とされ。中国では、1000年に一度“仙人”の庭に生える“人参果(にんじんか)”と呼ばれる“長寿薬の果実”である。それは、魑魅魍魎の怪奇妖怪の数々が登場する、中国の古典書、「西遊記」に登場する。
 そして“マンドレイク”の“実”は、正に、生々しい程に“人間そっくりの形”をした果実なのである。

 それでは“τ”空間とは何か? 平たく言うと“タイムゲート”とか“タイムホール”とか言われる時空間の出入り口である。また“スペースゲート”としての役割も果たす。

 ちなみに、ここ“王母宮(クィ−ンズ・パラス)”から這い出る、マンドレイクの木のこずえは、イース帝国の首都。シリウス星系の“カルー”へも、通じている。
 裏の道をたどれば、地球とカルーとは、時空を越えた瞬時なる距離にあるのであった。







 テーブルを囲み、4人と2人がおのおのの席に座り込んだ。裸の猿。つまりヤプ−たるクララ伯爵の護身畜・リンと。ポーリーン侯爵が、ついぞ数時間前に時間飛行の末、中南米から手に入れて来た、ヤプム(子宮畜)・カヨは、床にそのまま正座し鎮座していた。

 ちなみに“ハイパノ・ダーマ・プレス(皮膚窯作業)”を行っていない“カヨ”は、まだ数時間前の姿のまま、白い着物を着込んでいた。

 現在。ここにいる4人とは、クララ伯爵。ポーリーン侯爵。伯爵子息・ウイリアムに。支那風室内に支那風調度品を取り揃えた“王母宮”の邸宅の主、アンナ侯爵である。

 4人は、狩りも遊びも終え、ヤプムの買い取りも終え。
 今では4人は、黄色地に金の刺繍で仕上げた、豪奢な支那風の着物に着替えていた。

 ちなみに、現在ここに登場したアンナの髪の色は、あのスキー場や狩り場の時の髪の色とはうって変わって、“プラチナ・ブロンド”である。 

 ……今、彼等の乗る“時空飛行艇・ラピュータ”は、西暦3970年の現在のイース、その地球の大地の上に浮き上がっている。

 ここはアンナの“遊仙窟”から20キロ離れて建つ高さ1キロメートル、半径2キロメートルの真っ青な“円柱形の巨大な建物”の頂上である。“青い円柱”の建造物の上に建つ支那風宮殿……。ここが別邸“王母宮”である。

 王母宮は遊仙窟とは違って、まるで春の日のような明るさ、暖かさと共に。東洋風樹木の林と、広い湖の景色が回りを取り囲んでいる。

 彼等は丁度、客間にある大きな窓から、外の景色を展望していた。






 間もなくするとグラウコス(緑の人種。イースの奴隷で、シリウス星系の原星民)に良く似た、とんがった大きな耳、しかし角を持たない、プラチナブロンドに緑の瞳、長身箔析の白い肌の女奴隷1人が、両手で担ぐようにして、大皿に一個のマンドレイクを乗せて、テーブルの中央に持って来て置いた。

 あの“τの木”には、10個ばかりの人の形をした、マンドレイクの実が成っていたが、その中でも、最も良く熟れていかにも旨そうな物をもぎ取って来た感じである。


 この宮廷の中庭に生えていた、巨大なマンドレイクの木は、5本ばかり人間の指にも似た形のサボテンようのこずえが、平たいτの空間から飛び出していた。
 1本の長さは役13メートル、太さも直径3メートルもあるだろうか? 色は緑色。そこに1本のこずえに対して、3個から4個の実が付いていた。

 実の1個の大きさは、ほぼ人間の5歳児位の子供の大きさであるが、顔面は成人男のようである。漆黒の黒髪に黄色い肌。くるりと丸まって、まるで母体の羊水に浮いている赤ちゃんのような格好をしている。よく見ると、尻の穴がある当たりにつながっていたであろうへたが付いている。そしてその木の実は、いかにも嬉しそうに微笑んでいる。

 クララは、マンドレイクの全景や、生息環境の実態。この不可思議な人型の木の実の、生え出る仕組みが知りたいと思った。
 しかし、数人のイース貴族達の面前である。おもむろに聞いて、自分がイース人とは違った、20世紀から来たばかりの古代人であることを、知られてしまってはまずいと思い、この場は黙っていた。





 アンナは、みずから茶を4人分に注ぎ分けながら言った。
「ここでは、奴隷は使わずに主人が茶を入れて嗜むのが“支那流”の流儀なの。と、いうよりは“支那風スコットランド流”かしらね? ねえミルクは入れる? 無しにする?」

 お茶は、ジャクソンという銘柄の、西暦2000年のスコットランド製の紅茶である。
 茶器は、イギリス伝統の“ボーン・チャイナ(純白陶磁器)”風だが、デルフト窯を思わせる“唐子の模様(チャイニーズ・ボーイ・デザイン)”が、豪奢な金襴手になって付いている。その雰囲気たるや、いかにも“シノワゼリー(支那風情緒)”である。ポーリーン達が、普段呑んでいる“ソーマ”とは、また違った指向である。

 クララはアンナに、「たっぷりお願い。」と言うと。

 アンナは“支那風スコットランド流”の器に、半分ばかり注がれた紅茶に、宇宙ノウキュウ惑星からτ空間を使って運ばれて来た、新鮮で温かい生牛のミルクを混ぜてくれた。
 ことに、砂糖は混ぜないようだが、結構味には甘味も風味もあって美味であった。

 案の定、ウイリアムはミルク無し。ポーリーンはミルク入りである。

 アンナが言った。
「そろそろ、マンドレイクをいただきましょうか。」



 アンナは、そう言いながら、マンドレイクの片足の部分らしき所を引き裂くようにして、ねじ取ると。まず中皿に乗せ、ポーリーンに勧め、
「人肌程度の暖かさがとても美味しいのよ、これは。」と言いながら、
今度は、もう片足の付け根らしき所を、ねじり取ると、クララに勧めた。

 クララが、中皿の上にのせられたマンドレイクの実をまん丸な眼をしながら、みつめていると、ウイリアムが横からクララに口を挟んだ。
「僕も、マンドレイクを食べるのは、始めてなのですよ。結構美味しいそうですよ。」

 間もなく、ウイリアムの皿の上にも、マンドレイクの果実が乗せられた。
 マンドレイクは、果実はまるで血のように鮮明で赤く、やはり真っ赤な肉汁が垂れていた。黄色い皮の内側に、柔らかい白い綿ようの内皮が付いている。よく見ると、果肉の芯にも、人体にあるような骨ようの芯が入っている。

 クララが一口食べてみると、甘酸っぱい芳醇な香りが口の中一杯にとろける。ちょうどその味は昔地球で味わった、よく熟れたザクロのような味に似ていた。
 しかし、これは、皮も実も骨ようの芯まで、柔らかく美味しく食べられた。
 これは“動物の肉”と言うよりは、やはり“植物の果肉”そのものの味わいである。





 クララはついそこで、アンナに「こんなに美味しい物を、よく“三装法師”は食べなかったものですね。」と言ってしまった。

 するとアンナは、嬉しそうに。
「“孫悟空”を読んだのね。やはり20世紀の探検家は物知りね。そうよ。“彼”にはこれが人間そのものに見えちゃったのね。無理もないわね“ヤプーの肉”は“人の肉”そっくりなのですものね。でもこれは、植物なのよ。あの昔の書物では、1人が1個づつ食べていたそうだけれども、昔の支那人って随分大食いだったようね。」と、笑いながら答えた。

 実は、三装法師の出てくるあの“孫悟空”の話は“実話”だったのであった……。


 ポーリーンが、マンドレイクの踵のあたりをちぎり取ると、カヨに手渡しながら言った。
「カヨや。貴女には、私の代わりに私の赤ちゃんを産んでもらうのですものね。貴女も、しっかりこれを食べておきなさい。物凄く栄養があるのよ。」

 ちなみに、現在4人と1匹は支那語での会話を楽しんでいる。カヨにも“支那語ピル”をのませてあったが、リンは自力での、読解に四苦八苦であった。

 間もなくクララも、ポーリーンの真似をして、リンに一口の果肉を与えた。
 リンは酷く餓えていたのか、難なくクララの手にする果肉を口で受け取って食べた。

 クララは瞬時『“ヤプー”って、結構“共食い”を平気でする生き物なのね……。』と、つい思ってしまった……。



 間もなくして、地球支部・タイムパトロール総長官。アンナが、クララとウイリアムに嬉しそうに言った。
「クララさん。冒険家の貴女に、是非プレゼントをしたいものがあるの。あとで、ここ“王母宮”の“私の自室”へ来てくれないかしら? それからウイリアム。貴男にもあげたいものがあるのよ。クララ伯爵と一緒にいらして下さいね。ふふ♪ 隠していたって私にはしっかり判るのよ。貴男達は、今恋仲なのでしょう?! ウイリアムさん。貴男……。旨くクララに見初めて貰えれば良いわね。」




 ウイリアムには何となく、アンナからのプレゼントの中身が何なのか、判ったらしく、顔を赤らめたが、クララには、さっぱり想像も付かなかった。

 しかし、何事に対しても、興味深々の年頃のクララである。クララはアンナの言葉に対して喜んで。
「はい。オヒルマン侯爵!!! と、元気良く答えた。」



 ちなみに、本書「女神アンナの書2」半ばに登場した、アンナ侯爵の円筒形の豪邸“王母宮”で、召し使われる角の無い長い耳を持つ奴隷達は、“ハイ・エルフ”と呼ばれるもの達である。

 男も女も同じように、人間の顔面と長い耳をもつ、髪の色も緑とはかぎらない。彼等はグラウコスに良く似た稀少価値の高いグラウコスの奇形種であり、角を持たないため、護衛には向かないが、性質は温厚で従順、気位が高く、その寿命は500年と長命である。

 また、同時に肌の色の黒い“エルフ”も存在し、彼等は“ダーク・エルフ”と呼ばれ、おもに、野山や森林の管理業務をする。



【「真・家畜人ヤプー絵伝」リリスの帝国編・ACT2】
◎文献
★「家畜人ヤプー・中」沼正三・太田出版版
★「劇画・続家畜人ヤプー・悪夢の日本史編」シュガー佐藤作・辰巳出版
★「ある夢想家の手帳から・下」沼正三作 ・太田出版
★岩波出版「失われた大陸」E・B・アンドレーエヴァ著
★講談社現代新書「失われた文明」A・ゴボルフスキー著
★講談社現代新書「アトランティス大陸の謎」金子史郎著
★小学館「妖精なんでも辞典」水木しげる著
★JTBのポケットガイド135「南米」
★ライフ人間世界史2「インペリアルローマ」他

原文・2001年2月。絵・文の写し・2004年6月製作。


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