“家畜人ヤプー・リリスの帝国編”ACT2・第14話、第15話



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“家畜人ヤプー・リリスの帝国編”ACT2・第15話
★ΑΝΝΑ(アンナ・女神アンナの書)★


序章
 自転車に乗った女の子とすれ違う。と、もう私の呼吸(いき)が苦しくなる。
……花弁の中心にピッタリと密着し、それを支え、その重みで、ぎしぎし鳴き続けているサドルのことを思って私の呼吸は弾み、目は血走る。
 どうして彼女はサドルにだけあのような位置を与え、私には与えてくれないのか……。

「どうかお願いです。私のこの体を、いやこの顔をサドルの変わりに使って下さい。思い切りよくこの顔の上にまたかって下さい。」……天野哲夫「暗い欲望」より。






 西暦3970年……。ヤプ−暦1748年……。10月14日。



“空中島・ラピュータ”に着いたばかりの“ポーリーン達”一行に。頭に立派な角を生やし、緑の勾玉を首飾りに、金の短い腰巻きに、金の腕輪をはめた“緑の男奴隷(グラウコス)”が、独りそそと近付き、上品な口調で“ポーリーン侯爵達”にうやうやしくものを言った。

「オヒルマン卿。……殿下はただ今、スメラ山麓の“游仙窟(フェアリー・ケイプ)”で、皆様をお待ちでございます。私。“ポテイノス2”が、殿下の別荘宅まで案内致しますので、乗り物は何になさいますか?“自動地下通路(ムービングロード)”か、軽車両でしたら、“黄金虫(ビートル)”か、“軽畜車(プクーター)”か、“畜輪車(ヤプ−・サイクル)”もございます。」

 するとポーリーン公爵は、さも嬉しそうに。
「そりゃあ“プクーター”だわ!! 抜群の乗り心地に、桃源郷たる“ラピュータ”の、素晴らしい景色が、素肌で満喫出来るのですもの!!!」

 するとポテイノス2は、続けた。
「今回は、ポーリーン様お独りで来られるとばかり思っておりましたもので、御夫人御双方には“プク−タ−”はございますが、あと独りは“畜輪車”をお使い下さい……。」

 するとウイリアムが、腐りながら言った。
「げええ〜。“サドル(尻置き)”が“ヤプ−の顔面”になっている、“畜輪車”かああ〜。せめて、サドルが雌畜の顔面だったらましなのに。あれ、“爺い(じじい)”の顔しているだろー!!!」

ポテイノス2「実は、あれが人気の秘密なのです。“サドル”めが、窒息を堪えながらひんひん泣く声が、お客様達に定評なのです。それにあれは“電動機能”の付いた“スポーツタイプ”の車両ですので、スピードもかなり出ますよ。」

 ……しかたなく、ウイリアムは畜輪車に乗る事にした。






“スメラ山麓”とは、“飛行島・ラピュータ”の中央部に存在する山麓である。ここは人工的に“真冬”の様相を演出し、年中スキーやスケートが楽しめる指向となっている。
 またここ“ラピュータ”には、“冬”の様相だけではなく“四季折々”の東洋風樹木や花々。小川や泉、滝や池等も備えてあり、四季の自然を満喫出来る指向にもなっている。

 ちなみに飛行島は、直径100キロ、底面の厚さ5キロ。
 スメラ山麓とは“大雪山スメラ”と呼ばれる、高さ4キロのなだらかな円錐形の山に、横に長く平均1.8キロの尾根が連なり、七峯(しちほう)と呼ばれる平均高2.5キロの大雪山の城門が、大雪山を取り巻いた輪状盆地の形になっている。

 輪状盆地の一番低くなっている所には、遊艇用人工湖(ヨッチング・レイク)と呼ばれる勾玉状の湖が備えられてある。
 ちなみに、大雪山スメラの頭頂部から、傾斜が無くなるまでの距離は約15キロである。


 スメラ山麓までの道のりに、ポーリーンとクララは、快適なプクータ−に乗り、2人は颯爽と一本道を走り抜けて行った。

 一方それに対してウイリアムの方は、2人のあとを追って少し離れて付いて行く。ウイリアムの若干1メートル80センチ、体重70キロが、畜輪車のサドルをぎしぎしときしませる。電動自転車とは言え、プクータ−に乗る事を思えば、遥かに体力を消耗する。

 大体畜輪車と言えど、自転車というものは、男の乗る乗り物でわない!! ウイリアムの金玉が、時々サドルの爺いの顔面の唇あたりに触れる。
 そのたびごとに、畜輪車が「ひーひー。」と、苦しそうに声を上げるのが聞こえるが、ウイリアムには、それは余り気持ちの良い物でわなかった。

 ウイリアムの心の底では、微かにこう思った。
『あのクララ様と御一緒が出来ると思ったから、こんな支那くんだりまで来たのだ!! ああ……。この畜輪車がせめて“雌ヤプ−”だったら、嬉しいのに……。』




 畜輪車自身も、実は、同じ事を考えていたのだった……。
『けええ〜いっ!!! 男に乗られるとは思わなんだわいっ!!! いつもは御夫人に乗って頂けるのに、今回は何の不遇か男でわないか!!! 嬉しゅうない!!! 嬉しゅうない!!!』




 遥前方にポーリーンとクララの乗る、2台のプクータ−が走っていた。
 クララはふと、後ろを振り返りながら、ポーリーンに言った。
「何だか、私“畜輪車”の方に乗ってみたかったわ。あれって、股がると“ひんひん”言って、面白いってお話だったでしょう? なんだか、ウイリアムに気の毒だわ……。」

 するとポーリーン、
「そうね。股がって乗る乗り物は“男”には不向きですものね。“あの子(ウイリアム)”の方が、きっと股間が痛くて“ひんひん”言っているわよ。」

 クララが、後ろを追って走ってくるウイリアムを振り返ると、ウイリアムはいかにも楽しそうに、クララに片手を上に延ばし、満面の笑みを浮かべて見せる。

 クララが、その様子を見るなり、
「ああよかった。楽しそうだわ。」と言ったが、
 面目状、笑って見せていた実際のウイリアムの心身は、辛かった……。



 ちなみに“プクータ−”とは何か? 別名“軽畜車(けいちくしゃ)”ともいう。半分50CCバイクで出来た“ヤプ−”である。
 つまり、鋼鉄製“サイボーグ・ヤプ−”である。20世紀の中頃に、バイク(オートバイ)のことを“スクーター”と、呼ばれていたことを知る者は多いであろう。つまり、プクータ−は“ヤプ−のスクーター”なのである。

 その構造は至ってシンプルである。
 まず、エンジンは原子力で作動する。原子力とはいっても、クリーンなウラニウムを少量使用するのみである。

 またプクータ−は、膝と肘を曲げたスタイルで腹這いになり、手の裏に足を乗せ、背中にイース人の尻を乗せて頂く使用である。

 胸元と下腹当たりに車輪とタイヤが装着され、それを回転させながら、道を前に進む。頭部はゴムようの完全マスクがすっぽり被され、頭の部分から丈夫な二股のハンドルが突き出ている。顔面の中央にも双眼鏡が突き出しており、搭乗する主人の命令如何によって、従順にどこにでもつつ走る。
 また、このプクータ−は、手動に切り替えることも可能な仕掛けになっている。

 ちなみに、このプクータ−には、特別らくちんな仕掛けが付いている。
 座椅子が“オーダーメイド”なのだ。プクータ−の背中に股がって数秒後。プクータ−の分厚く設えられた背中の皮下脂肪が、座り客のお尻の形にピッタリの形に変型する、ゆえに女性客、男性客問わず違和感無く使え、まことにNASA公認のマジックシートそのものの使用となる。

 ちなみに、軽畜車でわない畜輪車も同じであるが、“ガソリン”となるものは“イース人の小便”でも十分機能するが、やはり、ハイスピードでの遠乗りを楽しむには、原子力に切り替えて使うのが一番である。

 軽畜車、畜輪車、どちらもサイボーグ製であるので、肉体の部分を保持するために“ヤップミルク(畜乳・平民イースと奴隷の、それと、イース人と奴隷以外の動物のし尿も含めて、全て、どろどろに溶かし混ぜたもの)”を少量与える必要がある。







 3人が、スメラ山麓の“フェアリ−。ケイプ(遊仙窟)”の邸宅に着くと、緑の髪に1本の角を持つ、長い耳に痩身長身の緑奴、グラウコスの若い女性達に出迎えられた。
 彼女達は、いずれも劣らぬ北欧風の美貌の持ち主達ばかりで、皆一応にして支那風の長いスカートに髪型のサーバント(召し使い)姿をしていた。
 彼女等“緑奴(グラスレイブ)は”、この邸宅地の名“フェアリー(妖精)”の名に相応しく、いかにも“ケルトの神話”にでも出て来そうな、古代英国妖精“エルフ達”のようである。

 また緑奴は、男と女ではその容姿に、かなりの違いがあった。



 ポーリーン、クララ、ウイリアムの3人はそれぞれの控え室に案内され、神代時代の、日本の男装束に着替えさせられた。
 純白を基調とした長袖に長ズボンの軽快な着物に、黄金色でしつらえらえた長い帯、長ズボンの膝の下当たりを金の紐で結んであった。それに翡翠の首飾りや金の腕輪。見るからに立派な、黄金細工の剣も持たされた。

 ここまでは、男女の区別は無く、来客は全ていちおうにズボン姿のようである。

 また、3人の装束は共に“冬服”とは思えない程、軽装であった。
 ……それもそのはずである。3人は、衣服の下に、ヤプ−の全身の皮膚を剥ぎ取って作った、柔らかい収縮性のある“全身皮製のスーツ”を着込んでいたのだから。


 3人は着替えたあと、来客室に集まった。



 ウイリアムが“ホルモン・タバコ(ふかしても、ヤニ性の煙が出ない仕様になっている)”に火を付けふかし始め。
 ポーリーンが、ポケットから小さなケースを取り出し、その中から一つ、クララにあるものを手渡して言った。
「これは“支那語ピル”という“丸薬”なの。便利なものだから呑んでおきなさい。これを呑んでおくと、支那語が話せて、支那文字も読めるようになるのよ。」

 澄んだ緑色のグミ状の7ミリばかりの紡錘状の薬である。クララは不思議そうに思いながら、緑奴に言って水を持って来させ、ポーリーンの言われた通りにピルを呑んだ。


 3人が来客室にある、大窓から外を見ると、深々とふり積もった雪山に、綺麗な樹氷の林が見える。
 すると間もなく、遠くの雪山の方から、大きくスキーのシュプールを描きながら、独りの貴婦人が、スキーの二本板に、四つん這いになって腹這っているヤプ−の背の上に乗ったまま、飛ぶように滑ってやって来た。

 貴婦人の姿が、どんどん大きくなるにつれ貴婦人は、片手を大きく挙げ、彼等の前で奇声を挙げた。
「“イヤッホー!!!!”」と、

 3人は早速、来客室を出ると、貴婦人を出迎えに雪の積もる外へ出た。




 貴婦人の名を“アンナ・オヒルマン”。
 若干551才にして、パラス(処女であり、若い男青年のような女性)で、侯爵。
 地球支部・地球管理局総督。及び、地球支部・タイムパトロール総司令官総督。大変高貴で高職な女性である。

 彼女の精神年令、生活年令は優に500歳を過ぎているが、その肉体的年令はまだ、30歳の麗人たる貴婦人であった。

 ちなみに、“イース貴族”の“平均寿命”は、科学のテクノロジーの進化がゆえに、“約800歳”の寿命を誇っていた。それは、現代もなお使用されている古典書、「旧約聖書」に連なる古代の歴代聖人達の、平均年令にも等しいものである。
“イース貴族”達は、正に“老いを知らぬ”人種達なのである。

 アンナは、黒髪をミズラに結い、長袖に、膝の下を紐でしばっただけの長ズボンを履き、彼等3人とほとんど変わらない、軽装の服装であった。
 腰に黄金の飾りが付いた剣を下げ、背中に弓矢を背っていた。

 アンナが自分の顔面を触ると、首のあたりからもう一つの顔を見せた。
 アンナも、3人同様。ヤプ−の“スキン製スーツ”を着込んでいたのである。

 髪型も見事にスーツの一部であった。黄色みかかった色の顔から、薄いピンク色かかった素肌が現れた。
 身長1メートル74センチ。髪は茶色っぽいウエーブした肩までかかる金髪。ほんのり寒さのせいか、彼女のピンクがかった肌の色が少し赤みを帯びていた。
 彼女はスコットランド系のイース貴族である。
 また、体系は決してグラマーではなく、むしろ引き締まった筋肉質で細身の体形である。細い顔だちに切れ長の長い眉、瞳の色は翡翠のごとくに緑であった。


 ウイリアムは嬉しそうに、アンナ侯爵に近付くと、握手を交わし。
「“アンナ侯爵”の出版物。『私達姉妹は、ヤプ−世界の神話になった。』の1巻を読みましたよ!! 面白かったです!!! 次号はいつ頃の予定ですか?!」と訪ねると、

 アンナは
「まあ。ウイリアムったら、そんなに待ち遠しいの? まだ2巻は執筆中よ! その話は“狩り場の中”でしましょうね。」と、話ながら。



 次に、クララ伯爵と握手を交わし、
「始めてお会いするわね。私が当飛行島・ラピュータの主で、タイムパトロール督のアンナよ。クララさん、おうわさは“ポーリ−(ポーリーン)”からかねがね。“探検家”だそうですね……。今後とも、ポーリ−共々よろしくね。」と言い。

 ポーリーンには、
「ポーリーンたら、今日来られたばかりなのに、今日中にシシリ−の邸宅に帰られるなんて……。十分なもてなしが出来なくてとても残念だわ……。とにかく、今、ラピュータは紀元前7001年、南米大陸へ移動中よ。そこに、良い出物があるの。この飛行機は、巡行速度で5千年を1時間で移動出来るから、1時間もあれば現場に付くわ。それから、今、狩り場に2匹の“異星人奴隷”の“処刑囚”を放してあるの。面白いから“ハンティング・ゲーム”をしましょう。

 目標物にはスキーを履かせて、全裸で丸腰……。こちらの武具は、古典的に半円(弓矢)に剣でいきましょうか……?!“プギー(雪山畜)”も用意してあるわ。私が乗って来たものと同じ特級品が、あと来客用に数匹バンクがあるの。」

 クララは不思議そうに、アンナに訪ねた。
「“異星人奴隷”の“処刑囚”ですか……?!」

 アンナは答えた。
「処刑囚よ!! アルデバラン24番惑星の原星民で“エリスロ・サウリア・ヒューマノイド”という“赤奴(エリスレイブ)”と呼ばれる奴隷よ。彼等は“ウラニュウム鉱山”で働いていて、逃亡を働いて“イース人の管理官”を合計で5人も殺した“重犯罪者”よ!! せめて、無駄に現場で銃殺されるよりは、ここで“戦死”したほうが、本人達にも良くて……?」


 つい黙り込んでしまったクララに対して、ポーリーンが優しく答えた。
「殺人囚とは言っても、恐くはないわ。彼等は丸腰の上、狩り場の外に逃げ場は無いのよ。」


 ちなみに“プギー(雪山畜)”とは。
 イース貴族達が“スキー”に使う乗り物である。それは、スキー板に直接全裸のローヤプ−の手足を癒着させて、這いはらせた恰好のまま使用する。
 使用時は、その背中に土足ごと乗り、雪山を滑降する指向となった、非常に安全で快適な乗り物である。

 運転法は、プギーの背中中央縦2列に、並んで、お灸痕のようなものが点々と並んでいるので、これを靴で踏んづけて刺激しながらプギーを運転するのである。

 ちなみに、これから3人が乗ろうとする、アンナの所有する“プギー”は、現在“異星・スベロー星”でヤプ−大学卒者、特別教育された“ノラヤーン(ノラ−ル物)”で、新品ばかりである。
 また、プギーは滑るためだけではなく、ハンティングにも好利用される。2001'2'19'




原文・2001年2月。絵・文の写し・2004年5月5日更新。



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