“家畜人ヤプー・リリスの帝国編”ACT1・第12話、第13話
ACT1・6
☆ΚΑΤΕΓΟΝΙΑ(カテゴニア・神統記)☆
☆ΘΕΟΣΑΙ δ´(テオッサイ テトラ・神々の宴3)☆
“家畜人ヤプー・リリスの帝国編”ACT1・第13話
★ΘΕΟΣΑΙ δ´(テオッサイ テトラ・神々の宴3)★
その後……。クララは“リン”の“権利宣言の鞭”の儀式をしたあと、“ポーリーン・ジャンセン侯爵”の邸宅へ戻って来た。
それから、そのあとの出来事の事を、ふと思い出した。
いつものようにポーリーンの邸宅の“オウム(ベニコンゴウインコ)”が、
「ソーマ、ソーマ、ソーマの時間でーす♪」と言って、数回歌った。
午前11時頃……。ランチタイムが終わり、今日の2回目の“ソーマの茶会”の時間となった。
邸宅のサファイアの大テーブルに、いつもの5人が座ろうとする頃、ふとポーリーン侯爵が、独りの美少年を連れて現われた。
美少年は、まるで少女と見まごうばかりの美貌であった。
少年は歳の所15歳位。年令のわりに中肉長身で、知性的な雰囲気のある少年である。
髪の色は海老茶色で、腰まで長く延びたロングヘアーを、巧みに頭の後ろで編み込んで、その先をポニーテールのように、後ろに長く垂らしていた。
瞳の色は鳶色。少年は脛まであるロングの黄色いキュロットスカートに、ハイヒール。高衿の白のブラウスに、貝紫も鮮やかなネッカチーフを、襟元で粋に巻き付けていた。
表情もいかにも少年らしく愛らしく、顔立ちは、細長い弓なりの眉毛に、細長い輪郭。
笑みを浮かべると、円らな瞳に、顎のまん中にエクボが出来た。
そして物腰は、いかにも貴族らしく上品で、知性的な雰囲気が漂う美少年であった。
ポーリーンがクララに、美少年を紹介した。
「紹介するわ。“侯爵子息・チャールズ・マック”。15 歳。私の友人“アグネス卿”の息子さんなの。私の、今建築中の新居、“邸宅・クリスタルパレス(水晶宮)”の隣に住まっている方。彼、丁度“アグネス卿”と一緒に、仕事の都合で、この“地球”へ来ているの。
それとチャールズは、“画家”を職業にしている、私の“夫・ロバート”の“教え子”でもあるのよ。
チャールズも将来“画家志望”で頑張っているわ。」
その後、チャールズにも、クララを紹介して言った。
「こちら、“クララ・フォン・コトウィック伯爵”。“探検家”なの、将来有名になる方よ。」
チャ−ルズは笑顔を浮かべると、クララの手元に、優しくキスをして挨拶をした。
「よろしく、“クララ伯爵”様。私、“チャールズ・マック”と申します。」
その後、クララがふと見ると、
チャールズが一匹の“ヤプ−”を従えて、供に居間に入って来ている事に気が付いた。
その“ヤプ−”は背の低い、身長約60センチ程の、全身に美しい深紅の地に金の見事な幾何学模様の刺青を入れた、ほぼ球体の、まるまると肥った“オス”の“ヤプ−”のようであった。
だが、なぜか“逸物”がまるで付いていなかった。……股間が、全くつるつるなのである。
そしてそのヤプ−の首には、金属製のシームレスの黄金の首輪と鑑札を付けられ、その首輪から、約2メートル程度の長さの、綺麗な模様が施された黄金色の鎖が付けられ、その鎖の端のグリップは、しっかりチャ−ルズの手の中に握られていた。
ちなみに、このヤプ−は“ハンドバッグ”と呼ばれるヤプ−で、いわゆる“ヤップ・ポーター(運搬畜)”の一種である。
“ハンドバッグ”は身長1メートル以下の物が主流で、目的はイース人の美観を少しでも演出する事と、小物を運搬する事である。中身は化粧品、マニュキュア、香水等のたぐい、ティッシュやハンカチ、眼鏡やネックレスのような装飾品、小物等が入っていて、ヤプ−がみずからそれらを身体を張って守っている訳でもある。
また、このヤプ−は“胸の中”か、広く“空洞”になっている。そして“内臓”は全て“下腹部”に収まり、身体の割に内臓そのものが小さく作られている。
それは、体型も内臓も“バイオテクノロジー”によって、故意的“奇形化(テラス)”されたヤプ−であり、成長と同時に、胸の中を直ぐに開いて使用出来るように、“オスト・ホールド・オペレーション(穴開け手術)”を行う。
内容は、小さくなったほとんど全ての臓器を下腹部へ移動させて、胸の中に広く空洞を作り、その空洞の壁面に、人工脂肪と人工皮膚をもって、粘膜、腹腔を覆い隠し綺麗に成形する。そしてそのあと、胸部を自由に開け閉めが出来るように加工手術をするのである。
この“ハンドバッグ”は、その全身の綺麗な“刺青模様”と、“首輪”や“鎖”、胸部に付けられた“がま口の留め金”の“貴金属の質”や“デザイン”に“価値的意義”がある。
これらは、あたかも現時代においての“ブランド品嗜好”も加味される逸品である。
それにしても、彼等“ハンドバッグ”は実に我慢強い。
あの強烈なる痛みをともなう“全身刺青”。足の裏側から手指の先、乳首の先にいたるまでの“全身刺青”の痛みに耐えるのである。
ちなみにハンドバッグは、種々多様なるデザインのものが、イース世界の需要にあふれている。
眼がレンズとなり、ホームビデオやカメラとなるものや、乳首にサーチライトが内蔵されているもの等……。それらが、既製品あるいわオーダーで、様々に普及している。
またハンドバッグは、足の“コンパス”が短いので、主人と歩幅を合わせて移動するために、いつも“ゲッター(反重力付き下駄)”を履いている。
ソ−マのお茶会のあと、突然チャールズが、
「“ボディ・スカルプチャ−(人体的置き物)”を見たい。」と言い出した。
“ボディ・スカルプチャ−”とは何か?!
これも、実は“ヤプ−”である。それは蒼白なる皮膚、蒼白の髪、蒼白の瞳。そして見事な白人の“肉体美”を誇る、“容姿端麗”なる“八頭身ヤプ−”である。その“肉体表面”の質は、正に“白大理石”その物の、つるりとした“肌”を持つ“ヤプ−”である。
ちなみに、このヤプ−は、柔らかくしなやかに出来た“合成金属”を、生化学的に“完全融合”をさせて造り出した“人工生命体のヤプ−”である。
このヤプ−の身体は、“固め”たり、“柔らかく”したりも出来るようになっている。
ポーリーンがチャールズと一緒に、クララ達3人を連れて、邸宅の中庭の、ちょっと庭先に突き出た、シームレス状の透明壁で出来た“サンルーム”へ案内すると、そこには見事なまでに美しい、ふさふさとした長い髭を延ばした、壮年の“裸体像”が立っていた。
そしてその“裸体像”の胴体には、純白の“大蛇”が、ぐるりと4回程巻き付いていた。
クララはその裸体像を見た途端、感激と驚きの声を挙げた。
「まあ素敵!!! なんて綺麗な“大理石の像”なの?!! まるで生きているみたいだわ!!!」
すると間もなく、ポーリーンは、笑みを浮かべながら嬉しそうに、クララに返した。
「そりゃそうよ。だってこの“ラオコーンの像(古代ギリシャのトロイア戦争時代の予言者。彼は、海王・ポセイドンの放つ大蛇に絞め殺されたとされる)”は、“正真正銘”生きているのだもの。」
ポーリーンは、チャ−ルズにその像を指差し言った。
「これよ、チャールズ。この像はもともと、ここに飾っていたんだけれど、いまいち面白くなかったから、あとで別注で“蛇”を造らせて、身体に巻き付けたの……。」
するとチャールズは眼を輝かせながら、その像に近付き、像らに向かって怒鳴り付けた。
「“ソフン!!!(緩解・かんかいすること)”」
するとどうだろう……。大理石で出来ているはずの“壮年の像”が“動いた”ではないか!!!
長い髭の像は、その後。ぱちくりと眼を数回まばたかせ、背中を少し丸めて、立ち直した。それと同時に、大蛇の方も、少し身体をほぐしたようだった。
チャールズが続けた。
「像の表情はもっと“恐怖”と“絶望感”にうちひしがれているように表現しないと駄目だよ!!!“大蛇”も、ただ4回ばかり像に巻き付けているだけでは、せっかくの“ラオコーン”の“テーマ性”である“悲壮感”を殺してしまっているよ!!! 大蛇はもっと像の身体に自然な形で巻き付け、もっと像の胴体を強く締め上げる事!!! 大蛇の“鎌首”は、もっと高く持ち上げるようにして、今にも像を呪っているかのような“表情”で!!! そう……。歯をむき出している方がいいね!!! 像は片手を大きく開け延ばし、我が身の非運を“神々”に訴えているかのような“苦悶”の表情を!!!」
像のポーズを変え、大蛇もそのポーズを変えると、大蛇がぎゅうぎゅうと像の胴体を締め上げていった。……と間もなく、その像の身体から“ばきっ……!”という、鈍い音がした。
多分ヤプ−の肋骨が1本折れたのであろう……。
その後、チャールズが、また大声で怒鳴った。
「“スティフン!!!(硬化)”」
瞬時にして像は、今まで何も無かったかのように固くて冷たい“大理石の像”に戻った。
かくしてここに“恐怖”と“絶望”の表情を備えた“予言者・ラオコーン”の“悲壮感”漂う、最高傑作作品が完成した。
突然ポーリーンが、手をたたいて歓喜の声を挙げて叫んだ。
「お見事!!! お見事!!! さすが“チャ−ルズ”だわ!!!」
その場に居合わせていた、ドリスとセシル、ウイリアムまで喜んで手をたたいた。
しかしクララは、ただ阿然として“人工生命体ヤプ−”の像をみつめていた。
再び“飛行船・ククルカン”の中……。
クララは、長椅子の上にごろりと転がりながら、ある事を思い出そうとしていた。
『あの“大理石製のヤプ−”の足の指も、確か“4本”だった……。イース人って4本指なのかしら?! そして、チャールズが連れ歩いていた“ハンドバッグ・ヤプ−”も“4本指”だった……。』
つまり、“ヤプ−”達の足の指とて、イースでは“4本”なのだ。
そして目下、自分の足の指は4本になっている……。
クララは、自分の“足の指”の“5本”が“4本”に、いつの間にか変わってしまっていた事について奇異に思った。
そしてクララは、ポーリーン侯爵に。あの日の前日……。13日の1969年あの日に、壊れてしまった“ヨット(小型時間艇)”の中で、確か、こう……。念を押されて言われていた事を思い出した。
「“クララ伯爵”は、“女王陛下”へお目通りするのですものね!!」と、
そこでふとクララは、最初にポーリーン侯爵と会った時の約束を思い出した。
『そうだわ。私は“ネアンデルタール・ハウント”と、呼ばれるヤプ−に噛まれて、自由意志を失った、“リン”に付いて介抱してやるために、ここ、未来の“イース帝国”へ来たのだったわ……。私が“時空艇・グレイシア”に“搭乗”するためには、私はいったん“イース人”になってしまわなければならなかった……。確かそうだったのだ……。私は“自分の戸籍”を造るためにやはり“女王様”には、お目通りをしなければ……。』
と考え直し、「はい、約束ですものね。」と、クララはポーリーン侯爵に素直に答えたはずだった……。
間もなくして、クララ・フォン・コトウィックが、ふと、レファランサーに問うた。
「ねえ。“イース人”って、どんな体型をしているの?! タイプとしては“ヒューマノイドタイプ”でしょ? ねえ。白人の私がつかない事を聞くようだけれど……。“イース人”の足の指は、……4本?」
すると、レファランサーは、何のつまりもなく、素直に答えた。
「はい、4趾足(4本指)です。」
するとまた再度、クララはレファランサーに質問を繰り返した。
「皆、イース人は4趾足なの? 例外は無いの? 皆そうなの?」
レファランサ−は答えた。
「“奇形的疾患”を患ってない限り、必ず“4趾足”です。」
すると、クララはしばらく黙り込んで考えた。
『私の足の指は、いつ、5本から、4本指になっちゃったんだろう……? そうだわ昨日だわ。昨日の夜、13日から14日の朝の間に……。確か、リンに襲われたあとの事だったわ……。まさか……。ポーリーン侯爵が、私の指を?!』
そこまで考えると、最後に、クララが独りぽつりと言った……。
「私は、“20世紀の探検家”……。そして、“足の小指の無い娘”……。」
ドイツの古い民話に「指切り娘」という“外伝風の民話”がある……。平民の娘が、皇太子の元に嫁ぎたいがために、自分のみずからの足の指を切り落とした、という民話である。
彼女は、“シンデレラのガラスの靴”を、自分の足に合うように、自分の足の小指を、人目に隠れて、こっそりと切ったという……。
そしてまた、クララは思った。
『西暦20世紀以降の地球では、酷い事が起こる事になっているのね……。私。凄く恐いわ……。でも、変ね?! 今の“イース人達”の足の指と、“私”の足の指の本数は、なぜ違うのかしら……?! 人間の身体って、たった“2000年”の間に、そんなに変わってしまうものなのかしら……?!』
そう思うと。
クララの心の中には、何かしら疑問らしきものが、浮かんで来て仕方が無かった。
原文・2001年2月3日。絵・文の写し・2003年9月6日製作。
【家畜人ヤプ−・リリスの帝国編・ACT1】終。
次回より・ACT2へ……
◯文献◯★「家畜人ヤプ−・上」沼正三作・太田出版★「家畜人ヤプ−・中」沼正三作・太田出版★「劇画・家畜人ヤプ−」石ノ森章太郎・都市出版★「エッダ」谷口幸男・新潮社、他……。
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