○ACT3“真・家畜人ヤプー・リリスの帝国編”第31話○
西暦2951年。ヤプー暦1729年。8月15日……。
シリウス第8惑星。“カルー”。
その首都から少しばかり離れた田舎町“バッキンガム”そこでの朝の日の事……。
ポーリーンが、自室の隣の部屋で飼っている“熱帯魚”の水槽を覗き込むと、一匹の“エンゼルフィッシュ”が死んでいた。それも、全身を穴だらけになって死んでいた。
“天使の魚”……。エンゼル・フィッシュ……。かつてのイースの紀元前時代の惑星、地球に住まっていた人達は、この壮麗可憐なる魚の名をそう呼び、愛でていた。
ポーリーンは思った。
『なんて残酷な魚だろう……。“エンゼル・フィッシュ”なんて“名前”を付けられているはずなのに……。……この“観賞魚”達は確か、1週間程度前の日に“母”が私に“プレゼント”をしてくれた“魚”だった……。
これら30匹程、いっぺんに1つの水槽の中に入れて飼っていたが、水槽の大きさは大きく。いくら魚が増えても良いように、高さ60センチ、四方が2メートルの正方形の大きな水槽に飼っていた。
だから、お互いに“テリトリー”を奪い合って“苛めあう”理由すら無かったであろうに……。』
間もなくポーリーンは。彼ら、物言わぬ“魚”共に対して怒って言った。
「“お前達は、皆寄ってたかって、こいつを殺したのだな!!!!”」と。
人が愛でて飼う“観賞魚”とは言え、生き物である……。特に“エンゼル”という魚は“気位い”の高い性質を持った魚である。例えそれらが、成魚であれ、幼魚であれ。彼等の中で気に入らない者が発生すれば、必ず“争い”が起こるものである。
現にひとつの命が水槽の中から消えた……。
ポーリーンは。嬉しそうに、餌を求めて集まって来る“観賞魚・エンゼル” 達を、悲し気に横目で“ちら”と見つめると、何もしてやらずに黙ってその場を放置した。
そして、ふとこう言った。
「お前達は、皆、“飢えて死んでしまえ!!!!” お前達は“天然の魚”だから、いけないのだ。もしも。お前達が“矮人出目金(ヤプーの奇形種、人工的に造り出した生物)”達であれば。決してこんな事故は、起きなかったであろう……。」
“ポーリーン・ジャンセン”12歳。小学7年生……。
“卿アデライン・ジャンセン侯爵家”の“プリンセス”……。
彼女は“貴族”ばかりが通う、“全寮制”の“カルー星学習院”の優等児であった。
ポーリーンの頭の中は、ついぞ数日前に、自身が学校の授業で行った。“裁判実習”の内容と結果をつい、思い出してしまっていた。
紀元40世紀。当時の“科学・テクノロジー”は、かなりの水準に達していたが、
“人間性”や、個人の“倫理的素準”は。20世紀の人々とあまり“大差”は無かった。
特に子供。幼児の持つ“潜在的残忍性”には、到底大人にも計り知れない程の、怪物が潜んでいる。それゆえ、この“イース社会”では。名も無い“異星人奴隷”達の“裁判”を、“実践授業”の一端として、“子供達に裁かせる”という、大胆な“システム”がとられていた。
それゆえにか、“子供”が“原因”となす、“家庭内・社会的”での“犯罪”は、ここ“イース社会”では、まるで起こり得る事が無いのであった。
検察官が被告を攻めた。
「被告は、わが子を殺し。自分の住宅敷地内にて、これを埋め、これを黙殺した。」
弁護士が弁解した。
「わが子を故意で殺す“母親”などこの世にはおりません。幼児は“事故”として亡くなったものと考えられます……。自宅の裏庭にわが子を埋めたのは、わが子の死体と共に、日々を過ごしたかったからです!! 我が国イースでは、奴隷は原則的に土葬です !!」
裁判官はポーリーンが勤めた。裁判官は弁護士に言った。
「幼児が“事故死”であった、“証拠”を提示せよ!!」
弁護士「外傷がありません。毒薬の投薬もありません。幼児の死体にもがき苦しんだ形跡もありません!!」
検察官が口を挟んだ。
「裁判長っ!! 意義がありますっ!!」
ポーリーン「何だ?! 検察官!! 言ってみよ!!」
検察官「被害者。幼児の死因は“窒息死”です!! 被告は、自分の手で被害者の鼻と口を押さえ込んだのであります!! 外傷などあるはずがありません!!」
ポーリーン、容疑者に問う。
「被告。バラバよ、お前はわが子を殺したのか……?!」
被告の名を“バラバ・ケラス”と言った。彼女は、アルデバラン23番星の“赤隷”と呼ばれる異星人で、恐竜のような姿をしたヒューマノイドであった。
バラバ「めっそうもございません!! 私は何も知りません!! 濡れ衣もよいところですっ!! 私の子“バラン・ケラス”は、一昨日の昼間から姿が見えなかったのです!! 私はわが子を自分の手で殺す所か、2晩中、泣きながら探しあぐねたのです!!」
ポーリーンは、バラバの夫。“メッサラス・ケラス”に問いた。
「夫よ。妻の証人になれるか?!」
メッサラス「恐れ入ります。私は御主人様の所へ、丁度奉仕で、昼夜2晩続けて泊まっておりました。連絡も無く、分かりようもありません……。しかし、妻は子供を殺せるような人ではありません。」
すると弁護士。
「被告には、わが子を殺す“動機”がありません!!」
すると、検察官。
「彼等、赤隷達の家庭は貧困でありました!! 時々食事も抜いていた程だそうです。3人での食事を、2人で食べた方が、少しでもたくさんの食事が食べれるはずでしょう!?」
すると、バラバが口を挟んだ。
「あんまりです!! 私は餓死を覚悟で、子供にだけは食事を与えておりました!!」
ポーリーンが被告に言った。
「そんなに苦しかったのなら、どうして政府に“生活保護”を訴えなかったのだ?!」
バラバ「私達は奴隷です。私達に生活保護の制度があった事など、知りませんでした。」
検察官「被告は現に。生きる努力1つしなかったのだ!!」
ポーリーン。トンカチで台座を、ぱこばことぶっ叩きながら言う。
「検察官は、黙りなさい!!」
弁護士。手を挙げて言う、「裁判長っ!!」
ポーリーン「何だ!! 弁護士?! 発言を許す!!」
弁護士「第3者から、危害を受ける可能性も考えて下さいっ!! 被告の住まいの治安は、稀に見ず、非常に悪い地域であります!!」
ポーリーン「第3者からの物取りか、誘拐。故意での殺人という訳だな……。弁護士。誰かの目撃証言はあるか?! どこか、現場で争った形跡はあるか?! 何か、事件と一緒に無くなった物はあるか?! 他に何か、被告の自宅での被害はあったか?!」
弁護士「一切ありません……。2日前に、玄関で植木鉢がひとつ割れていた位です。」
ポーリーン「弁護人。その植木鉢には、何も、異常は無かったか?!“未知の人物”の指紋が付いていたとか……?!」
しばらく黙っていて、ポーリーンはまた続けた。
「我等イースの人民に対しては“疑わしくは、罰せず!!”という“立法”があるが、
奴隷に対しては“疑わしくば、罰せよ!!”という“立法”がある。
それは、“奴隷”がら“イース人民”に対しての“万が一”の“事件”が起こらないようにするための、意義ある“予防対策”なのだ。
被告に、殺人と死体遺棄の容疑がかけられ、それをくつがえせるだけの証拠も証言も無い以上。私は“被告”を“有罪”とせねばならん。
被告も弁護士も、もう他には言う事は無いか……?!」
被告も弁護士も黙っていた。
ポーリーンはまんじりと、被告の眼を見つめて問い正した。
「被告バラバよ何か、当法廷で、何か言いたい事はあるか?!」
バラバ「ただ、証拠はありませんが。ハッキリ私はここで言います。私は“息子”は殺していません!! 真実は、私のみが知りえる事です。真実は1つなのです……。」
ポーリーン「当“学級法廷”では“死刑”は適応されない。懲役に対する“執行猶予”も無い、従って。原告は、我がイースの立法に従い“舌抜き”の刑罰を言い渡す!!」
「“ひいいーっ!!!!”」
被告バラバは、大きな嘆き声を上げて、その場にひれ伏した。そして大声を上げて言った。
「“裁判長っ!!!! そんな刑罰を受ける位なら、私をここで“銃殺”にして、くださいいいーっ!!!! 私も逝きますっ!! 死んだ息子の所へーっ!!!!”」
しかし、一介の子供が行う“学級法廷”とは言え。処罰は処罰である……。
間もなく、被告の“舌”は“刑罰執行人”と呼ばれる、やはりイース国民の“子供”の手で、被告の“舌”は“切り取られ”た……。
刑罰方法は簡単である。“タンカッター(舌切り機器)”と呼ばれる機材を、被告の舌にはめ込み、レーザーメスで舌の根を切り取るのみである。出血は全く無い。被告は今夜から、喋る機会も味わう機能の完全に失った。
ポーリーンが言った。「当法廷は、これにて閉廷……。」
ポーリーンは、そのあと自分の決定が、何かしっくりと行かなかった。
ポーリーンは、しずかにぼそりとつぶやいた。
「玄関に落ちていた、植木鉢のみが真実を見ていた可能性があるのだな……。」と。
小学7年生から10年生にかけては、おもに“奴隷達”の“刑事事件”と、小学1年生から6年生にかけての、上訴による“第2審判”を行う。弁護士、検察官、書記官、裁判官それに刑罰の執行人までもが、全ての役所は“子供”の手で行なわれる。
これらの学級裁判での、裁判官を行なう子供の名を“エンマ・ダイオン”とも呼ばれた。
哀れ。被告人……。
なお、被告に不服があれば、この上にはまた上訴の権限が与えられるが。今後の上訴は、大学生の法学部の手にゆだねられる。
そうは言ってもやはり、人生経験の少ない20歳前後の、見習い学生達である。被告にとっては災難てあるかもしれない。
ちなみに、この時代には“タイム・スコープ(時間検索鏡)”と呼ばれる、最新“機器”が開発されている。つまりそれを覘くと、“過去”に起こった“事件の真実”が、これによって完全な形で判明されるのである。
ポーリーンは、今回の学級裁判でも。“裁判官(エンマ・ダイオン)”の役を務めた。
大抵の場合、イースの社会では。学級法廷の裁判官は、“女の子”が務める事が多い。
古代の“プロ”さながらの“学級法廷”を。この時代において、子供にさせる理由は、
子供達の間に、イース人としての、同胞意識や人類愛意識を育成することを目的として行ない、同時に、現実の教育の場において、生々しくも生きたる“ヒューマノイド奴隷”を“献体”として使う事に、子供達の日頃の“精神的ストレス”を“半人権”し持たない“奴隷達”に向けさせて発散させるという、一種、人身御供的“意義”がある。
まるで“古代ローマ”の“素人相手の戦闘試合”か。哀れなる“人間”を裁く“中世の魔女狩り裁判”を傍観しているかのような様相とも言えよう。
このあと。ポーリーンは、学級の教師顧問から裁判官としての、成績表を手渡された。
成績はBダッシュ。つまり……、“裁判官失格”である。
普段の成績“特A”を誇りにしている、ポーリーンである。たとえ自分が学級の裁判官をしていたとは言え、ポーリーンには“遺憾”を感じた。つまり“誤審”したのである。
このような学級裁判は、平民の子供の学校でも行なわれている。1クラス年間、3回から4回の割合である。
真実を見抜く“タイム・スコープ”による、事実関係はこうであった。
やはり被告は“無罪”であり。被告事態も“被害者”の独りだった……。
“真犯人”は、被告の近所に住まう“主婦”であった。
主婦は、自分の“初産の赤ちゃん”を3ヶ月程前に“死産(恐竜族であるが、人類と同じく胎生である)”をしてしまったかために、近所に住まう“被告”の“息子3歳”を、連れ去って“誘惑”したものであった。
しかし、そこは“他人の子供”である。やがて被告の“子供・バラン”が泣いて家に帰りたがったがために、真犯人は、バランを“自宅監禁”をし、犯人が眼を離した際に、バランは為水の桶にはまって溺れ、亡くなったのである。
このあと行なった、真犯人の手管は。バランを被告の庭先に埋める事であった。
真実は、真犯人の“誘拐”及び“死体遺棄”。一切の真実を知りながら、真実を黙り、黙認し通した真犯人の夫の“事実隠匿”の罪……。当時、落ちた植木鉢だけが、真実を見ていた。
哀れ、舌を抜かれた主婦バラバは、裁判判定の直後。ありもしない、犯罪者にされた苦悩の罪にもがき。絶望の末。自身みずから主人の眼の余所見を見計らって、自宅で“首吊り自害”果たしたのだった。
奴隷達の苦悩の上に、イース帝国の平和と完全なる治安がある……。
『“上訴”すれば“再審の機会”が与えられ。“無実が判明”すれば、一端切られて無くなってしまった“舌”も、“クローニング(再生)”で、元に戻して貰えるのに……。』
学級裁判には、死刑は存在しない。眼をくり抜く、耳を削ぐ、手足や指を切り取る、爪を剥ぐ、顔を醜く形成させる、命に直接問題が無い程度に内臓を切り取る等の肉体への加虐行為。あるいわ虐待を与えるか、遠投か留置である。
それに真実の“刑事事件の裁判”は、“プロ達”の手によって、別裁で行なわれる。
イース帝国の人民の独り、ポーリーンは。こうしてひとつ大人になるのだった……。
そしてまた、この時にしてポーリーン。自害を果たした一介の奴隷を哀れんで……、
『自分は、本物の“検察官”になりたい!!!!』と、心に念じるのだった。 2001'3'7'
原文・2001年3月1日。
2009年5月 アップロード。
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