○ACT2“真・家畜人ヤプー・リリスの帝国編”第39話○

ACT3・10
第39話◎ΒΑΣΙΛΙΣΣΑ(バッセリア 神々の女王)◎




 西暦3970年。ヤプー歴1748年。9月16日……。

 確か記憶ではそのはずだった。何だか記憶が、ぷっつりと途切れている。




 ここは、シリウス第4惑星“アベルデーン”。
“100の大英帝国・EHS”!!!! 別名“イース帝国”たる。の、かくも高貴なる最上級の女性。
 ただ独りの“君主制・君主!!!!”その名も“クリスチーナ5世女王陛下”が頂く、大宮殿の謁見の間に、うやうやしくも、リンとクララが馳せ参じたのであった。


 かくも“女王クリスチーナ5世殿下”は、間の一番奥に設えられる王座に鎮座し。

 白鳥座ブラックホール・白色矮星で採掘された、大粒の700カラットの“紫”のファンシー・ダイヤモンド、“白鳥の涙”をはめ込んだ“オリハルコン製”の“王冠”に。

 右手には、紀元19世紀の地球・全盛期時代から伝わる、英国王家伝来の“530.2カラット”の“アフリカの星”と、10000カラットの“テラ・ノヴァの星”の、2つの“ダイヤモンド”をはめこんた゜、やはり“オリハルコン製”の2メートルほどもある“王杓”を持ち。


 女王は。全身、オリハルコンを編み上げて作った、古典的な20世紀風“乗馬服”に身を固め。大きな立て襟になったカラーに、裾の長い大きなやはりオリハルコン製のマントを羽織っていた。

 また、女王の胸元は、十数個の勲章で飾られ。オリハルコンの乗馬靴に。直径10センチばかりの大きさもある、ミッドガルド星で採れた大粒の“大洋の深海”という名の“ブラック・パール”の付いた腕輪も、嵌めていた。


 なんという、わざとらしい“王様”であろう……。
 全身が、正に、さんぜんと黄金に輝く“白金”の“オリハルコン”の輝きに包まれている。

“女王”は、見るからに“大英宇宙帝国”の“大王様”であるらしかった……。



 そしてまるで女王の間は。南欧の“バチカン宮殿”の“礼拝堂”如く。“荘厳優美”なる輝きに満ちて。驚きに満ちた、神聖なる“威圧感”があった。

 驚く程に、天井が高い。

 天井は丸く設えており、古典的なラファエロ風の画風で、銀河の中心におあす“女神・リリス”“聖母・マリア”“ギリシャ神・アフロディーテー”の絵が描かれており。

 イースに伝わる、数々の星の神話や伝説を、絵画として描かれていた。
 星星は“美少年”として描かれ。銀河は“ギリシャ神・ヘラ”の“母乳”である。

 ここ“惑星・カルー”の天蓋を。“エジプト女神・ヌト”が、支えている。

 歴代イース帝国の数々の英雄たちの魂を、銀河の中心へ運ぶ、大きな翼を持つ“女神・ハトホル”の絵。死者の門を守る“女神・バスティス”の絵。

 ここでは“古代エジプト”の神々も“信仰”されているらしい……。

 壁面には。台座に乗った“黄金”で出来た“天使たち”の“像”が、点々と立ち並んでいる。

 4羽の“世界を支える柱”を意味する2対の翼を持つ天使“ケルビム”。100個の恒星を意味する、100羽の、3対の翼を持つ“セラフィム”。テラ・ノヴァを意味する、祖先の“女神”としての“マーガレット女王”の像。


 彼らは、男も女もおり、皆。手に手に楽器や、旗や武器を持っていて、その星とイースとの歴史の一面をも暗示的に覗かさせている。

 彼らは一応にして、古代ギリシャ時代の風俗を身につけていた。

 それらと、無数に飛び交う、赤ん坊の天使“キューピット”の群。
 おおむねキューピットの群は、宙に浮いているべきキャラクターであるので、全部で1万羽ばかり、背中や尻の一部を壁に埋め込まれたり、柱に癒着させられたりしていた。

 キューピットや、天体を意味する天使たちの像は。いずれも、音楽や主催者の行為に合わせて、時折動いたり歌ったり、音楽を奏でたりするので。多分、全ての像たちは皆、“皮膚加工”を施した優秀なる“ヤプー”たちであるのだろう……。

 全てが黄金で輝いている。

 その他の壁の柱は、黄金やオリハルコンで、イースの歴代英雄や聖人。宇宙のあらゆる植物の模様や、動物の素材をあしらったデザインで飾られている。

 女王の背には。
 特に大きな壁に、放射線状に延びた光を、黄金とオリハルコンで表現してあった。

 女王が王座に座ったときに。あたかも女王の姿が輝いているかのような演出であろう。



 この、偶像だらけの“女王の間”において。いかにも“女王”が最も偉大なる“女神”に感じられるかのような、大演出である。





 黄金とオリハルコンの糸を模様場に織り込んだ、横幅7メートルもあろうか、1万匹の長髪尼畜(ロングへヤー・ナン)どもの雌畜ヤプーの髪を原料に作られた“真っ黒い絨毯”が、高い階段状になった大宮殿の王座の間から、女王の王座まで真っ直ぐに延びている。ものごつっい、王座の間である。



 クララとリンは、ど肝をむいたが。リンは“イースの女王陛下”との面会よりも。
 それ以上に、ウイリアムの“影間姿”を、前日の夜に“凝視”出来なかった事の方が、より気になって気になって仕方が無かった。

 今は。そよそよと静かに、メンデルスゾーンの音楽が、宮廷の中で響いているのに。リンは、夕べの“倭人・七福神”たちの奏でる、“禿げ山の一夜”のオーケストラ音楽が、リン自身の“夢想”のままに、頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。


 今のリンの姿も可笑しかった……。
 手と足の長さが同じくして、4つ足で立っていた。

 見ると、自分の4つの足が、メタリックシルバーに輝く“金属製”の足としている。
 首が妙に長くなって感じる。足から腹の一部、首と肩の一部が“金属”で出来ていて、体調はすこぶる爽快である。

 背中はナマの皮膚がむいたままで、息は、はあはあと切れるようだ。
 舌が妙に長くなっているみたいだ。そして、なぜか額がひりひりする……。


 リンは思った。
『ははーん。僕の額に、とうとう“家紋”を入れたな。』


 女王は玉座を立ち上がると、クララに言った。
「“クララ・コトウィック”伯爵とやら、わらわは苦しゅう無い、近うよれ。」

 クララは、リンを鎖て引きながら、女王の御前に少し寄った。

 この度の、鎖は股間には付いてない。背中である。背中が胸にかけて、銀色で出来たハ−ネスを嵌められ、その背中の部分に、鎖の端が装着されている。


 女王は、続けて言った。
「もっと近う寄れ。その“距離”では、話が出来ぬでないか!!!! もっ、もっとちこうよりなされ!!!!」

 その場でおろおろと立ち尽くす、クララの前へ、女王みすからが走り出すようにして、6人の女兵士たちを連れて、歩き寄って来た。

 女王の髪は輝く金髪。真青の瞳。透けるような白い肌。肉体年齢約30歳。生活年齢約300歳……。典型的ケルト系、アングロサクソン種、イース人である。そして、女王の表情は、みるからにわくわくとして、嬉しそうである。


 クララの眼が瞬時に、まんまるになった。眼を見開いたまま、その場の片足を絨毯に膝間づかせながら、恐れ多くも、つい深々と、お辞儀をしてしまった。

 女王が着込んでいる“オリハルコン”のドレス一式は、みずから“輝き”を放つ“金属”で出来てる。それゆえ“女王”の、全身からは、まばゆいばかりの光を放ち輝いていた。

 やはり、女王は“女神の中の王”そのもののように見える!!!!


 女王は、クララの両肩を抱きかかえるようにして、自分のしゃがみ込むと言った。
「クララ殿。そんな、たいそうなことはしいなや。お前さまも立派な貴族ではござらぬか??!! ここは豪邸ゆえ。ここに始めて来る大抵の人間は、皆。固まりよる。ほーっ♪ほーっ♪ 気にせんへんといてや!!!! 真時に構えてもらうときは、儀式の時だけで良い。」

 女王は、クララから少し離れて佇んだ。

 女王は、ポーリーンとウイリアムにも声をかけた。
「ホーリーンや。この娘(こ)が、お前の申していた“地球土産”の“娘”であるな。おう“男の子”がいるのう。そちは、確かに聞いておるぞ。最近、クララ殿と結婚した“妻どの”であるな……。確か……??!!」


 言葉に行き詰まる女王に、ロングスカートをはいたウイリアムは、ちょこんと膝を曲げ、額の位置を下げると、うやうやしく答えた。
「“ウイリアム・コトウィック伯爵夫人”にて、ございます……。」

女王「おお!!!! そそとして、奥ゆかしい……。良きおのこ(男)じゃ!!!!」




 リンは。ウイリアムを、にんまりとほくそ笑むようにして見つめながら言った。
『ふっ♪“そそとして、奥ゆかしい”て……。ほほ♪ やっぱり昨日。クララに“あの”でっかいやつで、おかまを“えぐ”られよったな……。』

 ウイリアムとリンの、眼と眼が合った。リンの眼がにたにたと笑っている。

 額から流れ出る一筋の汗を拭い取る、ウイリアム。



 ウイリアム思う……。
『何と言う、鬼没な奴!!!! こいつは、何で、夕べの“夜伽ぎ”のことを知っているのだ??!! 多分知っているぞ!!!! この“眼”わ!!!! なぜ!!?? 知っているのだ!!??』


 女王は、クララが鎖で引いている、リンを、チラと見ると言った。
「まあ!!!! なんて、見事な“ネアンデルタール・ハウント”かしら??!! 逸品ね!!!!」

 すると、ポーリーンが口を挟んだ。
「陛下に申し上げます。この“ヤプー”こそが、このクララ伯爵の、最愛の“ペット”でございます。“リン”と申します。」

女王「こいつはまだ“ロー・ヤプー(原ナマ)”と、聞いておったが……??!!」


 クララが言った。
「こいつは、私が、色々に使い分けたいので。私が“ユニット”を“数個”あつらえました。イースのテクノロジーでは“精神交換”が可能なので、今、試験中です。リンは今しがた“ネアンデルタール・ハウント(畜人犬)”になったばかりのなので、これからみっちり仕込もうと思っています。」


 リンは思った。
『なあんだ。そうだったのか……。僕が一度背骨を折って死んだはずなのに、生きていたり。セッチン(肉便器)になっていたり。今“畜人犬”になっているのも、それが理由だったのだな……。それにしても、イースの“テクノロジー”て、なんて凄いのだろう。』




 女王は、物欲しそうにリンをまんじりとみやりながら。
「私はつい“良いもの”を見ると、欲しくなる性分でなあ……。そうか、それならば、クララ殿。コレから頑張って、こいつを沁みなされ!!!!」

 また女王は。
「クララ殿。私は、お前さまからの“冒険譚”が聞きとうて、直々ここ、アベルデーンのわらわの宮殿へ来てもろうた。苦しゅう無い一緒に茶でも嗜みながら、話がしたい。」


 間もなくして、ポーリーンが、女王にうやうやしくものを言った。
「陛下……。20世紀の冒険家、クララ伯爵に、イース人としての戸籍を……。」

女王「おお。よろしい。クララ殿にはまだ“イース人”としての“戸籍”がまだ、無かったのじゃな!!!! 直ぐに作ってしんぜよう。
 そうじゃ!! クララ殿。ここアベルデーンにいつまで住まっていてくれるのかのう??!!」


 クララはその場。一瞬おろおろとしたので、再びまたポーリーンが口を挟んだ。
「陛下、申し上げます。クララ伯爵は、ここアベルデーンに“永住”する、所存にごさいます!!!! しばらくは、私の邸宅敷地内の、別宅に住まう予定にてございます。」

女王「おう。それは嬉しい。いつまでもここ、アベルデーンにいて下されや。」


 クララが瞬時また固まると、女王は続けた。
「クララ殿。話は、ポーリーン卿から、もうすでに聞きましたぞ。そなたは実は“20世紀”の人であるとかで……。気の毒になあ〜、あの時代は大きな“世界戦争”があった時代じゃ!!!! さぞかし“苦労”をなさったことじゃろう……。」


 女王陛下の、いかにも慈愛に満ちた優しいまなざしに。ついクララの心の中に、遠い昔、幼少の頃に離ればなれになった、自身の“母”の思い出がふと甦った。

 瞬時にして、クララの胸の中に熱い想いが駆け抜けた。

 しかし否。クララの眼の前に佇む女性は、何と恐れ多くも、100の太陽系を支配する“イース帝国”の“女王陛下”である……。


 クララは、またしてまでも瞬時にして固まってしまった。そしてまた思った。

『あら?? ポーリーンは、他の人たちには、私のことを“40世紀”から“20世紀”へ、タイムマシーンの故障で飛ばされた“気の毒な人”……。“生粋のイース人”。あるいわ“20世紀時代の探検家”として“紹介”をしているのに??!! 女王さま謁見の今回では、私のことを“正直”に話していたのね……??!!』と、


 女王が言った。
「クララ殿……。お前の産まれた“20世紀時代”においては、確か、お前の両親がすでに“グラーフ(伯爵)”であったそうな……。
 “昔”は現在のように“長子・母系制”では無く。“家督相続制”の上、“男権社会”で“父系制度”であったそうな……。

 ほんに、昔は“野蛮な制度”を行っていたものであったのう〜。

“男”は乱暴者で欲張りで、野心家で、醜い戦争ばかりを好む。破壊的人種じゃ!!!! 大バカものの“男権社会”の中で、さぞかし“卑屈”な生活を強いられて来たことであろう……。

 気の毒に、クララ殿。これからはもう苦しい思いはせずとも良いぞ!!!!
 ここは“イース”じゃ!!!! 大宇宙の“永遠の平和の楽園じゃ!!!!” ここは“女性”が統治する“理想の究極社会”である!!!! ここ“イース”を、お前様の“第2の生活”の場として住まうが良い!!!!」


 さも女王は、自分の治める大国家に、大きな誇りを持ち。いかにも満足げである。
女王「しばらくは、慣れるまでに時間がかかろうが……。お前も、直ぐにここの生活に馴染もう。
 そうじゃクララ殿は“旧ドイツ王国”で“伯爵”であった訳であるので。また、ここイースでも“伯爵”を名乗るのが良いが……。

 さりとて、自分の“領土”が欲しい所であるのう。おおそうじゃ、私の領地で、まだ地位管理が進んでない“惑星”がたくさんあるから、3つ程、それをそちに分け与えよう。それから、お前は特に自分が欲しいと思うべく“天体”があれば、何か言ってみなされ。」


 そこまで、女王に言われると。クララは、ふとある“天体”に思いを馳せた。
クララ「そうです陛下!!!! もしもそれに、まだ“領地主”が無いのでしたら。私はあの、地球の衛星。“月(ムーン)”が欲しゅうございます!!!!」


 女王は瞬時。眼をまんまるにして言った。
「“月(ムーン)”??!! 月とな??!! あの“太陽系・地球”の回りをぐるぐる回る、あの“月”とな??!! 確かにあれは、手を付ける者は誰もおらんが??! 第一、あそこでは何の“物産”も採れないので“放置状態”じゃの?!! へええ〜。お前は、そのような天体が欲しいのか??!“欲”の無い、者よのう……。」

クララ「否。40世紀のイースには、あまり興味の無い物なのでしょうが。私。“20世紀”の人間にとっては、大変な“憧れ的天体”でした!!!!」


女王「ほう。そうか……。それならその“月”を、お前につかわそう。それからクララ殿……。

 これからお前に“物産が採れる惑星”を3つばかり与えるが、その代わり、その惑星から採れる収入の内の半分は、わが王家に税金として治めて下さいな。よろしゅうにな。」

クララ「はい陛下!!!! 有り難き幸せに存じます。お陰で、私は、あらためて“イースの貴族”としての実名を堂々と名乗ることが出来ます!!!!」


女王「おお!!!! 麗しい返事じゃ!!!! わらわは、嬉しく思うぞよ。ここイースでは、“惑星の領主”を名乗る者が“人手不足”でな……。

 貴族社会は、“ケースバイケース”じゃ!!!! それから、お前に与える惑星の新開拓に当たって、奴隷やその他の機材。労働使役のヤプーたちを使わせて取らせるので、必要なものが出るたびごとに、わらわの方に言いなさい。しばらくは開拓に必要な資材と人件が必要であろう……。

 ああ!! それから、クララどの。お前様の“20世紀の冒険話”が聞きたい!!!! お前には、あとで、わらわの部屋に来てもらうから、ゆっくりして行きなされや。」

 気さくな女王さまである……。




 ポーリーンは。午後から、女王の皇太女“マーガレット王女”がみずから裁判官を執り行う。“ユニコーン・コート法廷”に、検察官として、指名を受けているとのことで。間もなくその場を去った。


 クララは、女王の気さくさに安堵して、固まりは砕けたが、
 お陰でそのあとの、女王さまとのお茶会には、くつろいだ気分でしっかりお呼ばれが出来た。

 クララの側に畜人犬らしく、しゃがんでいたリンはつい。
“ヤプー族”の、あの古典的文学たる“万葉集”の中から、ふと一句の詩が浮かび出た。

 そしてまた、こうも思った。
『へへえ〜。“月”ね。あの“月”が、“クララ女神”の物……。“凄いじゃん!!!!”
クララって、本当は実は“かぐや姫”だったのかしらん??!!』

『“天の海に雲の波立ち月の船、星の林にこぎ隠れ見ゆ。”これ、柿本人麻呂の詩だっけ??』

 夢見るリン。幸せのクララであった。まだもって固まるウイリアムだった。




 その後。
“クララ・コトウィック伯爵”は。有名な“冒険家”として、“イース帝国”にその名を馳せることとなった。

 彼女はその後。“20世紀の自分が生きた時代”においての、2つのベストセラー本を出版することとなった。
「クララ・コトウィックの冒険譚」と、「20世紀の回想録」である。 2001'3'12'



原文・2001年2月24日。
2013年10月 アップロード。





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