ACT2“真・家畜人ヤプー・リリスの帝国編”第22話、第23話


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◎第22話・ΣΚΛΑΒΟΣ(スクラボス・奴隷の書)◎
◎第23話・ΧΛΑΛΑβ´(クララ デュオ・半女神クララの書2)◎





“真・家畜人ヤプー・リリスの帝国編”第22話
ΣΚΛΑΒΟΣ(スクラボス・奴隷の書)



「兄きいい……、どうしよう……。」

 弟の無きそうな声に答えて、兄も答えた。
「寒いなあぁ〜、あのまま黙って働かされていたら良かったかなあぁ……。」






“赤隷(レッド・スレイブ)”。それもその名の通り“エリスロ・サウリア・ヒューマノイド(赤い恐竜人)”である。

 彼等は、超巨大赤色巨星を持つアルデバラン星系の惑星の1つ、第24番惑星に住む、恐竜に似たタイプのヒューマノイドである。
 彼等の身長は、やや人類に比べて2メートルと高めだが、妙に首が長く、踵から下の足の部分が極めて長めである。つま先で立ち、普通は簡単な衣装を身に付けているが、今の彼等はスキー靴を履かされたまま全裸であった。

 彼等の頭部は、丸く大きな黒い瞳に、白目は無く、鼻も口も一応人間ようであった。
 また、髪は肌の色に似ていて赤く、縦髪状に延びていた。5本指に、人間と同じような精悍な筋肉と胸板を持っていた。知能も高いらしく手先は至極器用である。

 彼等“赤隷”は、年中を温かい気候の中で育った“恐竜”に近い血を持つ種族であるため、寒さの厳しい雪山の世界の中では、例え“温厚動物”たる“恐竜型人類”と言えど、厳しいものがあった。





 彼等は、肉付きの頑強さを買われ、同じアルデバラン系の“第8番惑星”から連れて来られた“巨人原星民奴隷”達と共に、別恒星系の“ウラニウム鉱山”で、こき使われた。

“ウラニウム”は、イース人達にとって無くてはならない“エネルギー資源”のひとつである。これはいわゆる所の“放射能廃棄物”の全く出ない“核エネルギー原”である。

 彼等は“ラビュリントス(迷路)”と呼ばれる、高い青天上の開いた、分厚く固い壁面を毎日削り取る作業に追われた。
 彼等は削り取るために“ハンデマン”と呼ばれる、甲冑ようの作業用機械を着込み、毎日のように壁面の岩を削り取り、それを外に向かって流れ出る小さなコンテナようの箱の中に積み込む作業を行った。

 ウラニウム鉱山の発掘作業は、身体の大きな“巨人族”との共同作業であった。 



 ちなみに、彼等のこき使われた惑星の名を“ソゴ”と言い、その星に住む“地主”の別名を“黒の女王(ブラック・クイーン)”と言った。彼女の本名は“ジョアン・ブラック侯爵”
 栄えある“イース人貴族”の独りであり、“惑星ソゴ”の首都の高台に、さんぜんと建つ“時間城”と称する邸宅に住まっていた。

 彼女には“デュラン・デュラン”という“科学者の宦官”が付いていて、惑星ソゴの一切の“政治の切り盛り”を任せていた。

“デュラン・デュラン”にかかれば、どんなに真面目な奴隷も“犯罪者”にされる。」
 そんなうわさも他所目に“黒の女王”は、全く政治に興味を持たず、毎日を取り巻きのパラムア(男妾)達や、侍女達と共に、悦楽の日々を暮らしていた。






“デュラン・デュランの奴隷の扱いは、とにかく酷い!!!! ”
 ソゴの1日は25時間だが、奴隷に休み時間は無く、睡眠時間も約3時間しかもらえない。食事は肉体労働の割に驚く程少なく、1日2回。トウモロコシを丸く焼いた小さなパンを、奴隷達20人ばかりに対し、12個程投げ与え、奴隷達に取り合いをさせる。それが旨く取る事が出来ないやからは、その場での食事が抜きにされた。

 理由は、力がついて逃げ出されても、反乱を起こされても困るからである。
 し尿が溜まる事も、デュラン・デュランは嫌がった。それゆえ、ここに運ばれて来た奴隷達の多くは3ヵ月以内に、病死か餓死をしてしまうばかりであった。

 また、1人当たりの作業ノルマが果たせなければ、その日の夜は酷い電気刺激を伴うベッドに眠らされ、断眠の苦痛が与えられた。

 日々の作業の中。喉が乾けば、作業場の足元を流れる泥水を飲んだ。
(これらの行為はまるで、20世紀の地球“第ニ次世界大戦中”の頃に行われた“ドイツナチス党”の、“ユダヤ人炭坑場”の魔の現場をそのままの姿に彷佛とさせた。)






 実は、これらの所行は、“イース人社会”の道徳では、あるまじき行為なのであった。

「例え“奴隷”と言えど、奴隷には“半人権”がある!!!」と言われる有史以前の地球の“古代ローマ帝国”を模写しての生活を“美徳”とする“イース人”“理知来肌”である。
 奴隷には、何がしかの名誉と尊厳を与え、十分な休息と栄養を与えてやらなければ、しっかりした“労働行為”は行えない。という“理念”くらいはあるものだ。

“奴隷の命を無駄に使う……。”これはイース人の“道徳”を完全に害していた。
“イースの女権利社会”では、
過去の地球で行っていた“男権社会”による“力”による“弾圧の統一”は、“野蛮な行為”であるという、理念の基に従っていた!!!


 正にデュラン・デュランは特殊な人物であった。
 実は彼は、力を“誇示”する事を、力で“弾圧”する事として、“勘違い”をするような男であったのだ。
 それは“惑星ソゴ”が、“宦官”を信頼し過ぎるが故に起こった“事故”とも言うべき“惨事”でもあった……。



“ウラニウム鉱山”
の巣窟。“惑星ソゴ”の実体……。
 その実態も遠く離れて暮らすがゆえに、知らぬがままに“奴隷狩り”を行おうとする。地球総監督“アンナ・オヒルマン侯爵”の姿が、実はそこにあった。







 西暦3970年10月14日の午後。タカマラハン山系を飛び立った“時間飛行島・ラピュータ”が、一路。紀元前7001年の中南米を目指して飛行中の頃。

 ここ“大雪山スメラ”山麓の“狩り場”では、すでにアンナ達4人と、逃げ場を失った2人の“異星人奴隷”“処刑囚”達との、生死を賭けた競り合いが始まっていた。


 仲のよい“赤隷”の兄弟に、深い罪は無い……。

 弟が兄に返した。
「嫌だ!!!! あんな所で苛め殺される位なら、こんな寒くて知らない星の上で、いっそ死ぬ方が幾らかましだ!!!!

 ここには大きく広く見える青空もあるじゃないか!!! 僕等が働かされていた星に、確か、パイガーとかいう、盲(めしい。盲目)の“有翼人”がいたろう?! 例え、盲でも、空が飛べるあいつが、僕にはどれだけうらやましいと感じたかわかんなかったよ〜!!!」

 恐竜人の会話である……。
 イース人にとっては、ただの野生動物の吠え声にしか聞こえまい。
 広い雪山の中。ほんの少し出来た、小山のくぼみの中に2人の恐竜人の姿はあった。



 遠くの方からシュプールを描きながら、プギーの上に立ち上がったイース人が2人、滑下して来る。

 赤隷の兄が、その場を立ち上がると弟に大声で言った。
「俺がここでくい止めるから!! お前1人だけでも逃げろっ!!!!」

 弟が答えた。
「嫌だ!!!! 僕等にもう逃げ道なんか無いっ!!!!」

 兄が言った。「希望は最後まで棄てるな!!!! 逃げ切るんだ!!!!」

 それもそのはずである……。この赤隷の2人は、この雪山の“大地”が一種の“移動島”である。という事を全く知らないのである。
 それにましてや、この“島”“第6次元”の時間のトンネルの中を航行中であるなどとは、全く想像もつかない事であった。

 間もなく一筋の矢が、兄の太股に突き刺さり、兄がその場に倒れ込むと。
 弟は怯えきった表情のまま、涙を流し、兄を見捨ててその場を滑降しながら逃亡した。

 兄は、その場から消えて行く“弟の命の無事を祈り”ながら、
 刃物をかざしながら滑り寄って来る、1人のイース人達を相手に“必死の格闘”をし始めた。





 スキーのシュプールは雪の表面に跡を残す。消す事など出来やしない。
 赤隷の弟は、林の中へ身を隠すと、スキー靴を脱ぎ捨て、雪の積もる樹氷から樹氷へと、飛び移って行った。

 いか程時が経っただろうか……?! 赤隷が、木の上で息をじっと潜ませていると、丁度眼下に“イース人”の男らしき者がうろついている。

 そいつには、どうやら赤隷の存在に気が付いてないらしい。
 咄嗟に、赤隷は男に飛びかかると、その腰に下げた剣をスラリと抜き取り、男の前で即座に剣を持って身構えた。
 瞬間。一筋の矢が、赤隷の矢が赤隷の脇腹を刺しつらぬいた。

 一筋の矢はクララのものであった。
 命拾いをした男。ウイリアムは、“ほっ”と、胸をなで下ろすと、即座に赤隷を蹴り倒した。

 赤隷の姿は、想像以上に痩せていて、立ち上がる気力も無いようだった。
 赤隷には、まだ息がある……。赤隷は何かしら、クララに言いたげな様子である。

クララ「この奴隷……。“水”を飲みたがっていそうだわ……。」
ウイリアム「そういう時は、顔面に“小便”をかけてやれ!! イース人の物は“媚薬”になる。」
『なんて“奇怪”な事?! 小便が“媚薬”だなんて……。』


 クララが、赤隷の顔面に跨がって、小便をかけてやると。相手が異星人だったためなのか、不思議なことに赤隷の顔がほんのり笑顔になり、健やかなるままに死んで逝った。





 その後。2人の“処刑囚”達の“健康状態”のあまりの酷さから、アンナが不振に思い。“銀河パトロール”に現状が通報された。その後。速やかに密やかに、独りの“女監視官”“ソゴ星”に派遣された。

“全ての人に愛を!!!”」これが“銀河パトロール”の合い言葉である。
 その後。ソゴ星の宦官、デュラン・デュランは逮捕され。奴隷の地位は向上した。






“真・家畜人ヤプー・リリスの帝国編”第23話
★ΧΛΑΛΑβ´(クララ デュオ・半女神クララの書2)★



  3970年……。ヤプー暦紀元1748年……。10月14日。





 今日はあった……。色々あった……。その後判明した事だが……。

“時空飛行艇・ククルカン”に乗船中の時の、長椅子のベッドの中身は、やはり、リンであったそうだ。

『私を殺そうとまでした、リン。考えれば考えるほど複雑な気持ちになる。』
“第2次世界大戦”の最中から、あとの時代にかけて生きて来て。“家族達”と死に別れた“天涯孤独のドイツ人”クララにとっては。リンはただ独りのクララのお友達であり、大切な“婚約者”であった。

『あんなに“信用”していたリンが、私に“乱暴”を働くなんて………。
 とっても許せない………。

 だけれど、彼がただの“猿”であるというのなら、許してやれない気にもなれなくはない………。あの“ククルカンでの長椅子”は、ドリスがした事で、ああやってヤプーは慣らすと早く主人に慣れてくれるのだそうだ……。

 リンたら、私の足先がこそばかったり、私の重みが痛かったりしたらしいわ……。
“ふふん!! いい気味だわ!!!!”』



『今は、14日の夜……。』
 クララは、ポーリーンの邸宅の敷地内に帰って来ていた。

 クララは、裸の家畜と化したリンを連れて、イース貴族のウイリアムと、近くの池へ船遊びに出かけた。
 あたりは、まだほんのり、西の方向に夕焼けが差し込んていて明るい。

 月も出ていた……。『月の光に魂が吸い取られそう……。』

 青い山々にうっすらオレンジ色かかった雲。遠くの方には、噴煙中のエトナ火山が見える。

 この辺の湖や広大な平原。近くの山々は、皆。ジャンセン家の敷地内である。
 このあたりの風景は“本当の昔昔”の、自然のままの情景を彷佛させる。


 クララは疲れ切っていたし、早く邸宅の客室の自室に戻って眠りたかった……。
 間もなく。ウイリアムが、クララを船遊びに急かした。

 明日はポーリーン侯爵の新しい邸宅。“水晶宮”“落成パーティ”である。
『だから明日には、私はリンにもう一度、1969年に帰ってもらうかどうか、ちゃんと決めて貰わなきゃ……。でも、ドリスがリンを欲しがっているし……。

 独りで“1969年”に返したら、危なくないかしら……?』


 小さなボートが大きな湖の、ボート用波止場に数台つないであった。
 ウイリアムとクララが、ボートに乗ると、裸のリンも乗せた。

 空の色はいよいよ藍色を帯びてくる。星の色も輝き出すと、随分遠くのものまで見えるようだ。
『空気がきっと綺麗なのね。それとも希薄なのかしら……?』

 クララは、今日1日のことを思い出し、遠くを見回しながら少し寂しくなった。
 そして、クララは改めてこう思った。

『小さな人間が、自然界の中程にたたずむと、貴族も奴隷もヤプーも無いわ……。ただの生命体よ……。
 人間がいかに時間や空間を自由に移動したり、美味しい食べ物が食べられる時代になったと言っても、こうやって自然の原野に棄おり出されたら、どんな人間だって、自然のままのナマの“人間”に戻ってしまいそうだわ……。

 今は一体いつ頃なのだろう……?! 紀元前15万年? それとも西暦3970年……?』


 少しボートが揺れた。

 ボートは序所に波止場から遠ざかって行く。
 ふと、ボートの後部を見るが、エンジンらしきものは、何1つ見えない。ウイリアムが櫂を握っていてくれるようでも無かった。

 クララがふとボートの先端を見ると、6匹ばかりのヤプーが、ボートから延びる6本のロープをそれぞれ腰に付けたバンドにつなぎ、平泳ぎしながら懸命に引いてくれている。
 彼等の背中一面に、綺麗な薔薇。蛇。菊。葡萄。魚にトンボの刺青模様、指先には水掻き。

 クララはつい嬉しくなって、ウイリアムに言った。
「“まあ!!! 6匹!!!!”」



ウイリアム「泳ぎの旨い水棲ヤプー達です。陸に上がれば、ただのローヤプーなのですがね。」

 間もなくクララの“気分”は、一新に“イース人貴族”に立ち戻った。

 ボートの先頭に並び、ボートを引きながら、ゆっくり前進してゆくヤプー達の姿が、クララの眼に嬉しく思えた。そしてまた、ヤプー達が可愛くも逞しくも思えた。
 そしてまた、妙なくつろぎも覚えた。

 そしてこの瞬間。40世紀に、ただ独りと1匹で飛んで来たクララとリンの寂しさと、内心の心細さが、いつしか消えてしまっていたのだった。2001'2'20'




“リリスの帝国編”2シーズン完

 法(法律)は正義ではない。人の力こそ正義だ。しかし、王政にあっての、王そのものが正義だと言う根拠も無い。
 下僕の世にあっては、レジスタント。平民達の渇望の主張が正義だ。

 人は法を変える。しかし、真理に基づいた法でなければその国家は崩壊する。
 屈辱と過酷なる労働。貧民の中からは、正しい判断など発生するはずがない。

 何かが可笑しい。ここが変。人が作った正義より道理だ。道理より真理だ。
 人は人が裁くものではない。なぜなら、人を裁いた者の心は、醜くすさぶからだ。

 考えて欲しい。本当の正義。盲の女神・テミスが、手に持つ天秤は本当の正義ではない。
 人の正義は、天秤でおしはかるものでは無いからである。

 苦痛は人の財産である。もっと素直な心におなりなさい。人の業(技。職業。立場)は、それぞれ違うが、他人も自分も、同じ、人間という器に入った存在なのだ。同じなのだ。

 自分自身を愛するように、大事に思うように、他人の業を尊敬し、自分と同じように他者を愛せば、それで良いだけなのだから。それが真実の法である。

「全ての人(家畜人も含めて)に愛を。」そして、決して人生に後悔無きように。2004'6'3'



 

原文・2001年2月3日。絵・文の写し・2005年5月 製作。




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