“家畜人ヤプー・リリスの帝国編”ACT1・第3話・第4話

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★ΔΟΡΙΣ(ドリス・女神ドリスの書)★

 
地球西暦3970年……。
(ヤプー暦紀元1748年……。)10月13日。



“大英宇宙帝国”。別名“EHS(イース)”。“EHS”は地球を離れること8.6光年、シリウス星系・第4惑星“カルー”を“首都母星”とする“貴族制民主主義”星権、“超軍事国家”である。

 現在。銀河系の“知的生命体”が存続する“約5/1”の星星を手中に収め、有益なる“百億にも昇る太陽系”をその“領土圏内”に持つ。

 またも“EHS”とは、“エンパイヤー ハンドレッド サンズ”の略語でもある……。




 所は変わり、ここは地球である……。

 しかしもうこの星には、過去の万満の宝物たる、野生動物、森林野草の類いはほとんど絶え、現在大地地表の7/8以上に砂漠化の進んだ、辺境、そして何人も寄り付かぬ“不毛の惑星”の一つとして、“EHS”では認識されていた。

 ただ過去……。過去の地球に関わるものだけか、時間旅行などを理由に、この地での生活を営んでいた。


“EHS・大英宇宙帝国”の高級貴族。“侯爵(マーキス)、アデライン・ジャンセン卿”の末子で皇女子(プリンセス)、そして側室の子“ドリス・ジャンセン”……。

 ドリスは今。宇宙の辺境の惑星……。地球の別荘地。ジャンセン家の邸宅に、実子の兄・セシル。従兄弟・ウイリアム達と共に、近じか行われる別邸宅の“新邸宅”落成式に出席するべく地球へ来ていた。

 現在、彼等はここ“シチリア半島”の膝小僧の当たりにある、現在から数えて約4000年の昔に、その栄華を誇った、元“古代・ローマ帝国”の跡地に邸宅を構えている。

 また“新邸宅”は、現在の場所から少し離れた“シチリア島”の地に構えられる。

 新邸宅は、侯爵“アデライン・ジャンセン卿”の実子で長女。正当なる跡継ぎ。新侯爵“ポーリーン・ジャンセン卿”の新婚後の“新居”。そして、新しく“ポーリーン卿”の、お腹の中に“懐妊”した、またも正当なる“侯爵家”の第一子の、跡跡継ぎ誕生“祝い”もかねての建設であった。




 皇女子“ドリス・ジャンセン”が、ただ独り、自室のベットの上で、ぼんやりぼやいた。

「私は“お母様”と“お姉様”は大好きだけれど……。“お父様(側室)”は大嫌いっ!!! だって、だって、私はただの“妾の子”なのですもの……。“お父様”の馬鹿野郎っ!!!」


 ……ちなみに“EHS”は完全なる“母系社会”“長子家督権勢社会”、そして“女権制社会”である。

 かつて人類達が地球上を我が者にしていたその時代。“男”がすべての実権、そして権限を握っていた。
 しかし現在。人類が宇宙に進出するに従って、いつしか“女制権”へと進化を遂げたのだった。



“EHS”の侯爵“アデライン卿”……。ドリスの母は、母星“カルー”の宮廷内に、自分専用の“ハレム(側室・男妾の園)”を設け、大勢の男愛人達を、かこっている。


 ドリスは鮮やかな白銀に染め抜いた、まだ新しくて柔らかい“ヤプーの皮張り製”のベットの上で、“スピカ星系”で採れた銀染のシルクの毛布に、銀染のシルクの枕を抱いたまま、ベッドの上で惰眠をむさぼっていた。

 ドリスの傍らには、かつて過去の地球に生息していた、お座敷犬の“チン”の姿に良く似た“小型ヤプー”をはべらせていた。

 ドリスはそのヤプーを“ナメル”と呼び愛でていた。

“ナメル”は、いわば“ヤプーの奇形種”である。全身に犬ようの白と黒の体毛を生やし、身体のサイズは、頭長高(頭のてっぺんから尻までの長さ)が、約40センチ程度であろうか。
 あと足は極端に短く、前足たる手を地べたに這わせ、手足の長さを同じくする4っ足で歩行し、見るからに犬そっくりの体形でありながら、顔面はまさしく“人面”であった。

 ナメルの性格は勇敢で気まぐれ、そして怠惰であった。そしてドリスにすこぶる懐いていた。


 ドリスはごろりと仰向けに寝返ると、ナメルの柔らかな体毛を、優し気に片方の足先で撫でつけながら、またも、ぼそりと独り言を言った。

「アバロン号よ、アバロン号よ。私は“ペガサス・ポロ(EHSのスポーツ競技の一つ。ちなみにEHSでは、スポーツは女のものとされている。)”しか興味無い……。だってだって、私は、スポーツにしか能の無い女なのですもの……。」

 その後。ドリスはしばらく黙っていると、無性に野外に出て、失走がしたくなって来た。

 ドリスはベッドから独り立ち上がると、従順なるベテルギウス星系で生育された、巨人ヤプー“アマディオ”を、イヤリングに装着した小型無線機で呼び出した。

 その後ドリスは思考した。

『着るものは何が良いだろう……。今日の空模様は少し肌寒い……。これからアマディオに乗るわけだし、だから、柔らかくなめして身体にジャストフィットする天然色の“全身型ヤプーのレザースーツ(傷無しシミ無し、1匹分一枚物、髪の毛付き)”。それとも、暑くなって汗をかいてもつまらないから、ヤプーの脂肪肝から抽出した、七色に光るコレステロール製の、シルク仕立て風レオタードスーツが良いかしら?! それともラランド星系で採れた、耐保温調節ダイアモンド繊維で編み込んだ、しなやかで丈夫なスーツもお気に入り……。でも、それって着たあとはみいんな“スレイブ共(異星人奴隷)”の“エサ”になっちゃうのよね。あ〜あ〜。私が食べられちゃうみたい……。』


 ベッドから起き上がって数分後。ドリスが壁に向かって、「外を見せて頂戴。」と言うと、
 ベージュに緑の唐草模様の入った、ドリスの部屋の壁の柄絵が見る間に消えて、まるで壁が巨大水晶を磨き出したような、つやのある透明なものに変化した。壁の外は見渡す平原であった。

 間もなくドリスの部屋の中へ、真昼の暖かい日差しが差し込んだ。

「まぶしい……。でも、すこし暖かくて気持ちがいい……。」

 全裸のまま日の光りに当たり、ドリスが透明の壁の前に立っていると、ドリスのもう一匹の愛犬“ペロ”が、いかにも嬉しそうにして走り寄って来た。

 ちなみに“ペロ”も“ナメル”と同様、“ヤプー犬”である。いわゆる“先祖”を“日本人”とする“人の奇形種”である。

“ペロ”は“ナメル”とは違って、“猟用犬”であった。
 ちなみにペロは、過去に数々の“猟犬コンテスト”で“優秀な成績”を収めて来ている“超ハイクラス”の“猟犬”である。

 身体の大きさは等身大で、体毛は無く素肌で、肢体とその付け根はシルバーメタリック製の“半機械ヤプー(サイボーグ)”である。ペロもナメル同様、4足歩行タイプの犬であるが、むしろその姿は人間に近く、これも“人面犬”である。

 ペロは今流行の“ネアンデルタールハウント”と呼ばれるタイプの“ヤプー犬”であった。

 ドリスはぺロに、
「駄目駄目!! 今のお散歩はもう終わったでしょう〜。」
 と言いながら、ぺロのそばをすり抜けるようにして歩き出し、透明の壁に向かって立ち、再び外の様子をまんじりと見た。


 ドリスの全裸の立ち姿には、さすが“EHS帝国有数屈指”の“スポーツプロ選手”に相応しい、威風堂々たる美の粋があった。

 彼女の身長は1メートル85センチ。長身なようだが“EHS”では、べつだん珍しくは無い身長。
 プラチナ色に近い、ふさふさとした長い金髪に、ロイヤルブルーの瞳。すっきりとした精悍な顔立ちに、やや釣り上がりぎみの、ぱっちりとした目元。唇は薄く愛らしい。

 またもドリスは、若干、生活年令17歳の若さである。
 そしてその、しなやかなる肢体には、若者らしいみずみずしい輝きも備わっていた。

 また“EHS”では、ほぼ“17歳”が成人年令であるため、ドリスは今年、成人を迎えたばかりであった。



 するとさっき呼び出したばかりのドリスの愛ペット、“巨人・アマディオ”が、丁度透明になったドリスの外壁の外から、ドリスの部屋の中を覗き込んだ。

 ……現在の壁は、外からも室内からも覗ける仕様になっている。

 ドリスがアマディオに、笑いながら言った。

「私はまだ、あんたに乗るための着る服もまだ決めていないのよ。“あーくん”たら、気が早いんだからあ〜。私を裸のまま、あんたの肩に座らせるつもり……?」



 アマディオは、身長約4メートル程度のヤプーの巨人である。
 アマディオの先祖は“異星人”ではなく、まぎれも無く“日本人”であるが、これはいわゆる“巨人病疾患”を持ち合わせた“奇形種”を、乗人馬用に“人工的加工”を施した、改良型である。

 ちなみにこの種は、“6倍体型”ヤプーである。

 巨人種のヤプーは、おもに乗人馬用、闘技用、および野良仕事用などの“馬”の代用品種である。

 別名“肉体エレベーター”とも呼ばれる巨人種の業は、首から肩にかけて、馬のように椅子ようの“鞍”を乗せ、“EHS人”がそれに腰を掛け、鞭を振るい、巨人を走らせたり、作業をさせて遊ぶ仕様になっている。乗り心地は抜群である。

 ちなみに巨人種ヤプーの性質は、一般的に身体に似合わず小心者でおとなしく、特に主人に対しての従順ぶりは、超ぴかいちである。



 ただ、身体が大きすぎるせいであろうか、多少“行動が鈍臭い(にぶい)”という難点がある……。



 ドリスは間もなくすると、アマディオに背を向け、部屋のまん中に備え付けてある、古代ローマの貴族の豪邸さながらの、綺麗な真水をたたえた大きく広いジャグジーに、とっぷりとつかり込んだ。

 アマディオは、いかにもうらやましそうに、ドリスがジャグジーの中で泳ぐ裸体を覗き込んでいる。

 ドリスはアマディオに悪戯っぽく笑いかけると、
「あんたも入りたそうねえ〜。でもだめよ!! あんたの身体は余りにも大きすぎるのですもの……。」と言い。

 間もなくして、ジャグジーのへりに立っている、大理石の柱の上部を見つめあげ、
「桜の花びらを頂戴。」と言うと、空中から、良い香りのする薄いピンクに染まった花びらが現れ、ひらひらと程よくドリスのジャグジーの水面めがけて舞い降りて来た。

 ドリスが続けた。
「ロミュラン酒(覚醒作用のある、ロミュラン星の物産)が呑みたいなあ〜。」 

 すると間もなくそこへ、正装姿に整えた、緑色の長い髪に一本の角を頭に持つ、長い耳の、まるで妖精(エルフタイプ・古代ケルト人の昔話に登場する妖精の一種)のような姿を持つ、愛くるしい独りの少女が、一杯の飲み物をうやうやしく瀬戸物製のグラスに入れ、盆に盛り、部屋の中へ入って来た。

 少女の身長は、角の高さは別として見れば、ドリスより数センチばかり、低めの身長だった。


 すると、愛犬ぺロも、少女のかたわらに寄り添うようにして付いて来る。

 水晶のように透明の壁の外では、アマディオも従順な犬のごとくに、主人の外出して来る時を、今や遅しと、待ちわびている。


 ドリスが緑の髪の少女に、事をたずねた。
「ねえ、“リディア6(シックス)”……。今日の散歩着は、何が良いかしら?」

 ちなみに、この少女“リディア6”は“グラウコス”と呼ばれる種族で、シリウス星系に住まう“原星民”であり、“EHS貴族”に使われる事を誉れとする、従順なる“スレイブ(奴隷)”達である。

 リディア6は、「今日は少し、肌寒うございますから、コルキス星系の黄金の山羊の毛で編んだ、つなぎのドレスはいかがでしょう?」と答えた。

 ドリスはロミュラン酒を一口ちびりと口に含むと、しばらく思案してリディア6に言った。
「そうかあ、やっぱり肌寒いのかあ。外は好天気なのになあ〜。」と言い。

 再び「そしたら、今日の散歩は取り止め!! ポロの練習でも少し始めよう!!」と続けた。

 ドリスはリディア6に、
「うん。予定が変わった!!“6”。いつものポロ用の練習着を出して頂戴。」と注文をつけた。

 するとリディア6が「今日のお召し物は、何色に致しましょうか?」と聞くと、
 ドリスは「“赤”にしておくれ!!」とまたも注文をつけた。


 壁の外では、まだもってアマディオが、いかにも寂しそうな表情をしながらドリスを見つめている。
 アマディオは、実に我慢強いヤプーである。

 間もなく。ドリスは笑いながら、アマディオに言った。
「あはは!! 今日は“アバロン号”に乗る事にするよ!!“アマディオ”はまた、今度な!!」と良い、

 裸のままジャグジーから上がると、今度は別の美少女達の“グラウコス”を2人ばかり呼び出して、着替えの手伝いをさせた。


 気の毒なれやアマディオ。彼は、その後、しぶしぶと自分の小屋へ戻った。

 EHS貴族は、着替えが大好きである。そして、一度着た服は決して2度とは着ないしきたりとなっている。

 ちなみに、EHS女性の正装は、古代有史(宇宙暦紀元元年・西暦20世紀末期頃)以前より存在した、乗馬服スタイルである。
 理由は、乗馬が、EHSでは“女性の特権である”事と、女性の乗馬姿の凛々しさ誇らしさが象徴されるからである。特に乗馬服姿は、貴族世界で愛でられているものの一つであった。

 ドリスは古代の乗馬服と、EHS女性特有のレオタード風装束をとり合わせた、モダンファッショナブルな服を着込むと、さっそうと自室をあとにした。





“アバロン”とは、個体名であり、EHSの植民恒星系“アルファーケンタウリ星系”の“先住星民族”で、ドリスが所有する“知的家畜”である。
 EHSの学名で“プテロ・カルドベス(有翼四足人)”。それは丁度、旧時代の地球の“馬”のような姿をしている。
 プテロ・カルドベスは、“ヒューマノイドタイプ”ではないが、知能は恐ろしく高く、テレパシストであり、性質は勇猛果敢、思慮深く、EHS人に対して、好意的かつ従順にふるまう“異星人”達なのである。


 別名“ペガサス”と呼ばれる、“プテロ・カルドベス”。
 またもドリスの“愛馬”、……異星人奴隷の“アバロン号”という命名には由来があった。


“アバロン”とは、“古代ケルト神話”に登場してくる“冥土世界の楽園”を意味する名である。

“ケルト”とは、あの“イングランド”、“グレートブリテン島”。“アイルランド”を含む、北西ヨーロッパの当たり地域一帯をさして言う。こという“HES帝国”の前身は、“イングランド”つまり、“大英帝国(旧イギリス王国)”の事である。

 ちなみに、“ジャンセン侯爵家”は元来、“西ゴード族”の出身であり、いわゆる“ゲルマン系”の子孫である。しかし、西ゴード貴族とケルト貴族とは、時を遥かに坂上る事、宇宙紀元前時代の紀元14世紀頃とする中世ヨーロッパ時代からの、深く親密なる関係にあった王侯貴族同志であった。


 話は戻るが、“プテロ・カルドベス”は、古代ギリシャ神話に出てくる“ペガサス(翼のある馬・天馬)”の姿に良く似た“異星人”である。

 彼等は背中に大きな一つのこぶを持ち、4足歩行で足の指は4本とも奇蹄目に属し、1対の大きな翼を持った、空を巨大なる鳥の如くに飛翔する生命体である。
 顔面は人面であり、それは地球人の白人のさまに酷似している。

 長い馬の首。巨大な身体。翼を無視すれば、その大きさは地球の“アラブ種馬”に近い感じがする。
 彼等は言葉は喋らないが、テレパシストであり、EHS人との心の会話が可能である。
 長い丈夫な縦髪は、飛翔するたびにたなびき、きらめくほどに美しい。
 
 ちなみに“アバロン号”にまたがり、黄金に輝く髪をたなびかせながら飛翔する、ヒューマノイド型生命体なる“EHS帝国”“侯爵皇女・ドリス”の姿は、正に“ケルト神話世界”に登場する“冥土の楽園世界”の支配者、“女神の女王”のごとくに、幻想的気品と優雅さ壮麗さに満ちた美しさがあった。


 ドリスは深紅の衣装に、純白のスカーフ、そして深紅のブーツ、黄金の乗馬用のヘルメット。
 黄金のステックを手に、豪邸・ジャンセン家邸宅から広く突き出たバルコニーの外へ、颯爽と歩き出た。

 すると間もなくしてピラミッド型の銀に輝く宿舎から、両翼の翼を大きく広げ、全身を純白とする一頭の駿馬“アバロン号”が、すぐさまドリスのそばに、飛翔して駆け付け、優雅に舞い降りて来るのだった。


原文・2001年1月30日。絵・文の写し・2002年6月14日製作。



 

★ΘΕΟΣΑΙ α´(テオッサイ エン・神々降臨)★

地球西暦1969年10月13日
(ヤプー暦・紀元前253年)……午後。

 ここは地球。西ドイツ・タウヌス山脈のとある中腹付近にて、一艘の巨大紡錘型“宇宙艇”が、縦長に浮かんでいた。“宇宙艇”はいわゆる所の“葉巻型母船タイプ”である。

 全長約400メートルの紡錘型で、一番太い部分の直系は、ほぼ100メートル程度であった。
 それは地上から空中、約30メートル程度の間隙を空け、まるで空中に鎮座している。

 その色は、まるで7色に輝く巨大な“乳白色オパール”のようであり、その宇宙艇の表面は、正に磨き上げられた“カボションカットの宝石”のようであった。



 この巨大“宇宙艇”は、ジャンセン家が所有するEHSの宇宙艇である。
 そして、この宇宙艇は“グレイシア(氷河)”と呼ばれていた。

 グレイシアは、“超巡行型・ワープ型宇宙艇”であり、優に“時間飛行”にも優れた機能を備えていた。
 グレイシアの時間航行の毎時は、4000年である。EHSではこの類いの巨大筒型の宇宙艇や時間艇を“シリンダー(円筒)”と呼んでいる。

 なぜ、このような場所に、宇宙艇グレイシアが現れたのか……。
 それには理由があった。昨日の日の事である。


 ジャンセン家の長女。“侯爵、ポーリーン・ジャンセン”が、“ヤプム(子宮畜・借腹用の家畜人。HES人は自分の子宮内で自分の胎児を育てない習慣がある)”の収得のための下見に、“小型時間飛行船”に乗り時間飛行に出たきり、帰りが少し遅くなっていた。

 そして、その後。間もなくしてポーリーンからの“救助信号”を。妹、ドリスが受け取り、急遽“グレイシア”を、ここ“1969年”の“タウヌス山中”へと“発信”させたのであった。

 グレイシアの真下には、今正に、ポーリーンの乗った“小型時間飛行船”が堕ちていた。




 ポーリーンの乗った“小型時間飛行船”は、時速600年である。そして、その形体は“フライング・ソーサー(空飛ぶ受け皿)タイプ”の、直径30メートル、平均厚み約5.5メートル、特に中央の厚みは、約10メートル程度の、中央が膨らんだ形をした“船”である。
 円盤の底には、直径10メートル程度の球を半分にわったような形の、まん中が出っ張った付属物が3つ並んで付いていた。

 また、時間飛行船は、飛行時は、おもに明るくオレンジ色に光っているが、今は残骸となり、ほとんどその光はうせていた。

 ジャンセン家の人達は、この小型時間飛行船の事を“ヨット”と、呼んだ。


 ヨットは、空中で突然停止し、丁度山小屋の建っていた地面に叩き付けられたあと、山の斜面を滑り落ちるようにして、山の木々の間にはさまっていた。
 ヨットの一部が大きく裂け、機内内部の機械仕掛けが、ゆうにむき出していた。


 今、グレイシアの中では、ポーリーンの兄セシル。そして妹ドリス。従兄弟ウイリアム・ドレイパアの3人の身内が搭乗し、数人のスレイブ(奴隷)達と共に、姉ポーリーン侯爵の不時着した、ヨットの回収を急いでいる。




 あれから1時間後……。
 無事回収作業を全て終え、ジャンセン家の長女、ポーリーン侯爵が、ヨットの残骸の中から現れた。
 と同時に、姉ポーリーンは、見なれない独りの若い女性客と、一匹の“ヤプー”を連れて出た。

 姉ポーリーン侯爵は、言わば、ジャンセン家において母アデラインの次に、家庭でも、またも“HES帝国”を形成する“貴族社会”においても、大きな権限を持った女性であった。


 姉ポーリーンは、心配しながら走り寄って来る、愛妹ドリスに言った。
「有難うドリス!! おかげで助かったわ!! ヨットは壊れちゃったけれど、どうにか通信機だけはまだ使えたので連絡がとれたのよ。私、恐かったのよ……。そうそう。ドリスに紹介しなくっちゃ!! お客様よ!!」

 ポーリーンが後ろを振り返ると、そこには茶色い髪と琥珀の瞳をした、乗馬服姿の20歳位の白人女性が品良く立っていた。そして、その女性のすぐそばには全裸の、一匹の若いオス“ヤプー”も一緒に立っていた。

 ポーリーン姉が、茶色い髪の女性に手招きをすると、その女性はドリス達のそばへ近付いて来た。
 と、同時に妹ドリスにも……。

「クララさん。ご紹介しますわ。こちら、妹の“ドリス・ジャンセン”。まだティーンエイジャー(10代)なのよ。でも、凄い“スポーツフェチ(スポーツ狂)”で、今“ペガサス・ポロ”の“プロ選手”で“恒星間オリンピック”にも毎年出場しているつわものよ!! それから、この方は“クララ・フォン・コトウィック”さん。未婚で“アール(伯爵)”よ。“歴史学探検家”だそうよ。私は今日偶然、この時代に、この人に助けて頂いたの!!」と話した。

 もじもじとしながらたたずむ、クララ伯爵に、ドリスは嬉しそうに手を差し伸べながら、
「クララさん。有難う!! 私。妹ドリスからも、姉の事。お礼を言うわ!! せっかくだから、当船艇で姉とゆっくりしていって下さいね!!」と言うと。

 クララは恥ずかしそうに。
「いいえ。こちらこそ。」とドリスに答えた。

 間もなくドリスの眼が、クララ伯爵のそばに立っている“ヤプー”に止まった。

ドリス「へえー。“ロー・ヤプー(加工前の奇形の全く無いヤプー)”なんだ……。これ。貴女のペットなのね。まあ、なんて“綺麗なヤプー”なの?! 筋骨の付き方と言い、艶やかな肌といい、均整のとれた肢体と言い、それにまだ若いわ!!」

 ヤプーを見つめるドリスの眼が輝いていた。
 ドリスはどうやらクララが連れている“ヤプー”が、無性に欲しくなったようだった。

 間もなく……。ドリスはクララに頼むように言ってみた。
「クララさん。この“ヤプー”、私に譲って頂けないかしら?! お礼は何なりとしましてよ。」

 すると、クララ伯爵は即座に、首を横に振った。


原文・2001年1月30日。絵・文の写し・2002年6月14日製作。



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